金が1年ぶりの安値。「有事の金」なのに、なぜ3割近く下がったの?
金(ゴールド)は、守りの資産だと言われる。何かあったときに頼られるので、「有事の金」という言葉もある。
でも、その金が、10月30日に1年ぶりの安値になった。日経新聞によると、ロンドンの金の値段が1オンス3,900ドルを割った。きっかけは、アメリカがまだ利上げを続けそうなこと。それから、原油高で物価が上がりそうなことだ。
物価が上がりそうなのに、金が下がる。守りの資産なのに、3割近く下がる。実は、わたしも2023年まで、金のETFを持っていた。なぜ下がるのか、いまの金に何が求められているのかを調べてみる。
1. 金は、どれだけ下がったの?
金の値段は、2025年から大きく上がっていた。いちばん高かったのは、2026年1月29日だ。そこから下がりはじめて、10月30日には、1年前とほぼ同じ値段に戻った。
1年前の値段から3か月で上がった分を、9か月かけて吐き出した形だ。
2. 「有事の金」って、なぜ言われるの?
お金の多くは、誰かの借金の形をしている。預金は銀行の借金で、国債は国の借金だ。お金を借りた側が倒れたり、国の通貨の値打ちが下がったりすると、目減りする。
金は、誰の借金でもない。金そのものに値打ちがあり、どこの国のお金でもない。だから、戦争や大きな混乱が起きたときに頼られる。これが「有事の金」だ。
大きな買い手のひとつが、国の中央銀行だ。世界金協会の調査(2026年2〜5月、76の中央銀行が回答)では、金を持つ理由として、危機のときの強さや、資産を分けて持てることが挙がった。回答の多くは、中東で紛争が始まったあとに集まっている。
そして、答えた中央銀行の89%が、世界の中央銀行が持つ金はこの先1年で増えると見ていた。自分の国の金も、この先1年で増えると答えたのは、全体の45%で、過去最高だった。
3. なのに、なぜ下がったの?
金の弱いところは、持っていても利息がつかないことだ。株なら配当、債券や預金なら利息がつく。金は、持っているだけでは何も生まない。
そのため、金利が上がると、金は見劣りする。とくに大事なのは、物価の上がり方を差し引いた金利(実質金利)だ。物価が上がっても、それ以上に金利がつくなら、金を持つより預けたほうがいい、となる。
例えると、利息のつく預金と、金庫にしまった金の関係に近い。
実際のお金でいえば、金を売って、利息のつく債券や預金に移したくなる、ということだ。
1月から10月までに、これが起きた。
アメリカの実質金利は、1月の1.89%に対して、10月30日は2.60%と高い。FRB(アメリカの中央銀行)は9月に利上げした。10月28日の会合では据え置いたが、金利を決める12人のうち2人は、さらに0.25%の利上げを主張している。
ここで、原油が関わってくる。原油は1月の65ドルから104ドルまで上がった。物価が上がりそうなら、FRBはまだ利上げを続けるかもしれない。金利が上がれば、利息のつかない金は見劣りする。物価が上がりそうなのに金が下がる、というねじれは、ここから来ている。
さらに、ドルも強くなった。金はドルで値段がつくので、ドルが強くなると、ほかの国の人には割高になる。
ただ、これだけで全部は説明できない。実質金利は、9月末の2.93%から、10月には下がった。それでも、10月の金は下がっている。金の値段は、金利のほかにも、たくさんの人の気持ちで動く。
4. いま、誰が金を買っているの?
わたしがいちばん知りたかったのは、ここだ。いまの金には、何が求められているのか。
世界金協会の数字を見ると、金を買う人は、大きく4つに分かれる。
1〜6月で比べると、ETFを通した買いは、ほぼゼロになった。値段が下がった4〜6月には、売りに回っている。国の中央銀行は、去年より少ないものの、345トンを買った。そのうち289トンは、値段が下がった4〜6月に買っている。
延べ棒や金貨の買いは、去年より21%増えている。こちらは、まさに一人ひとりの有事の備えだと思う。
国にとって、金は「何かあったときの備え」だ。値段が下がっても、手放すものではない。一方、ETFで買う投資家は、値動きを見て出たり入ったりする。7〜9月は、ETFが持つ金が211トン増えた。金額では310億ドルで、3か月としては過去最高だ。9月には、値段が下がってETFの金の総額は前の月より7%減ったが、持っている金の量は4,256トンと過去最高になっている。
備えと、値上がりへの期待。いまの金には、その両方が求められている。
5. わたしとGLDM
わたしは、2023年まで、GLDMという金のETFを持っていた。金の値段に連動するETFで、アメリカで売り買いされている。
売ったのは、2023年10月17日。46口を、1口38ドルほどで売った。利益は出ていた。
そのあと、金は大きく上がった。GLDMは、いちばん高かった日に106ドルを超えた。わたしが売った値段の約2.8倍だ。もう少し持っていれば、と思ったこともある。
そして、いまはまた下がっている。いちばん高いときから、3割近く下がって77ドルだ。それでも、売った値段の約2倍ある。
結構やんちゃな動きをする。けれど、守りのイメージもある。わたしにとって、金は不思議な資産だ。
長い目で見ると、金はどうだったのか。アメリカの経済学者ジェレミー・シーゲルは、『株式投資 第6版』で、1801年からの約220年を、資産ごとに比べている。
1801年に1ドルを入れておくと、2021年には、株式は約5,400万ドル、金は94ドルになった。同じ220年で、物価は23倍になっている。年平均にすると、金は2.1%。物価の1.4%を、なんとか上回る程度だ。株式の8.4%とは、大きな差がある。
シェイクスピアの『ヴェニスの商人』に出てくる言葉だ。お金持ちの娘ポーシャとの結婚を望むモロッコの大公が、金・銀・鉛の3つの箱から1つを選ぶ場面がある。金の箱には「わたしを選ぶ者は、多くの人が望むものを得る」と刻まれていた。大公はそれにひかれて、いちばん立派に見える金の箱を選ぶ。でも、中に入っていたのは、どくろと、この言葉が書かれた巻物だった。正解は、いちばん地味な鉛の箱だ。
見た目の立派さと、中身はちがう。金も、「有事の金」だから守りの資産、安全資産、というイメージだけで選ぶと、この9か月のような下がり方に驚くことになる。何のために持つのかを、先に決めておくことが大事なのだと思う。わたしのイメージだけど、金の長期保有を検討するのは、資産が1億円を超えているくらいの人なのだと思っている。それまでは、オルカンやS&P500でいい。
6. まとめ
- 金の値段が1年ぶりの安値になった。いちばん高かった1月から、3割近く下がっている
- 金が「有事の金」と言われるのは、どこかの国や会社の借金ではないから。国の中央銀行は、今年も買っている
- 下がったのは、アメリカの金利が上がり、利息を生まない金が見劣りしたから。原油高で、利上げが続くという見方も強まった
- 国や、延べ棒・金貨で手元に置く人は「備え」として買う。ETFで買う投資家は、値動きで出たり入ったりする。同じ金でも、求めるものがちがう
- わたしは2023年にGLDMを38ドルほどで売った。そのあと106ドルまで上がり、いまは77ドル。守りのイメージなのに、やんちゃな動きをする、不思議な資産だ
・FRBの決定:FRB「FOMC statement」(2026年9月16日)、FRB「FOMC statement」(2026年10月28日)
・金の需要:世界金協会「Gold Demand Trends Q1 2026」(4月29日)、世界金協会「Gold Demand Trends Q2 2026」(7月30日)、世界金協会「Gold ETF Flows: September 2026」(10月7日)
・220年の比較:ジェレミー・シーゲル『株式投資 第6版 長期投資で成功するための完全ガイド』(日経BP)
・1928年からの比較:Aswath Damodaran「Historical Returns on Stocks, Bonds and Bills」(ニューヨーク大学、2026年1月更新、2025年までのデータ)
・中央銀行の調査:世界金協会「Central Bank Gold Reserves Survey 2026」(6月16日)
・実質金利:アメリカ財務省「Daily Treasury Par Real Yield Curve Rates」
・金・GLDM・ドル指数・原油の値段:Yahoo Finance
・わたしのGLDMの売却:SBI証券の取引報告書(2023年10月)
・格言:シェイクスピア『ヴェニスの商人』第2幕第7場
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