借金の多い日本の国債が「安全」? フランス不安で、20年国債に買いが集まった
10月20日の日本経済新聞に、「フランス・クレジット懸念で日本国債に買い集まる」という見出しが載った。財務省が売り出した20年国債に、買いたい人がたくさん集まったという。
わたしはこれまで、フランスの国債や、日本の金利のことを、何度か調べてきた。そのフランスと日本が、同じ見出しに並んでいる。まず、そこが気になった。
個人向け国債は持っていないし、今のところ買う予定もない。でも、国債は、お金の勉強をしていると、何度も出てくる言葉だ。最近は、気にしている。
ただ、日本は借金の多い国だ。その国債が「安全」とは、どういうことなのか。調べてみた。
1. 20年国債の入札が「好調」って、どういうこと?
国は、お金を借りるときに国債を売り出す。いくらで売るかは、入札で決める。財務省が「7,000億円くらい売ります」と予告し、銀行や証券会社などが「この値段なら、いくら買う」と申し込む。高い値段をつけた人から順に売っていき、予定の額(別の枠で売る分を除いた額)に届いたところで締め切る。買う人は、それぞれ自分が出した値段で買う仕組みだ。
表の「国債の利率」と「平均の利回り」は、似ているけれど、別のものだ。利率は、額面100円に対して、毎年もらえる利子の割合のこと。売り出す前に、そのときの市場の利回りに近い数字で決まり、満期まで変わらない。利回りは、実際に払った値段に対して、満期まで持ったときに、1年あたりどれだけ受け取れるかの割合だ。
今回は、利率が3.7%から3.8%に上がったのに、平均の利回りは3.856%から3.723%に下がった。9月の国債は、7月に初めて売り出したときの利率3.7%のまま、追加で売ったものだ。そのあと市場の金利が上がったので、100円より安い98円25銭でしか売れなかった。10月は新しい国債で、利率は入札の当日に決まった3.8%。市場の利回り(前の日は3.77%ほど)より少し高い利率だったうえに買いが集まり、100円より高い100円87銭まで値段が上がった。高く買った分だけ、利回りは利率より低くなる(くわしくは2章で)。
7,000億円のうち、値段を競う入札で売れたのは5,371億円。残りは、決まった条件で買える別の枠で売られる。この5,371億円に、3兆1,390億円の注文が集まった。注文の額を、値段を競う入札で売れた額で割った「応札倍率」は5.84倍。財務省の記録が残る1987年からで、いちばん高い倍率だ(これまでの最高は2019年5月の5.47倍、わたしの計算)。
ただ、1回に売り出す額は、1兆円から7,000億円まで減ってきている。売り出す額が小さいほど、倍率は高く出やすい。「買いたい人の数が過去最高」ではなく、「売り出した量に対して、手をあげた量の割合が過去最高」と読むのが正確だ。
もう1つの目安が「テール」だ。売れた値段の平均と、いちばん安く売れた値段の差のこと。今回は、平均が100円87銭、いちばん安く売れたのが100円80銭で、差は7銭。前回の15銭より小さい。高い値段の注文だけで売り切れて、安い値段の注文まで下りていく必要がなかった、ということになる。いちばん安く売れた値段も、市場の予想の上限より高かったという(日経)。
例えると、高い値段から順に売っていくチケットに近い。10月は、いちばん高い値段から少し下がったところで満席になった。9月は、もう少し安く値下げするまで席が埋まらなかった、というわけだ。
2. 国債の値段が上がると、利回りは下がる
日経によると、入札のあと、20年国債の利回りは、一時、前の日より0.060%低い3.710%まで下がった。利回りが下がったのは、国債の値段が上がったからだ。
国債は、毎年もらえる利子と、満期に戻ってくるお金(額面)が、最初に決まっている。変わるのは、いくらで買うか、だけだ。
たとえば、額面100円、利率1%(毎年1円の利子)、満期まで残り10年の国債を考えてみる。100円で買えば、利回りは利率と同じ1%。これを基準に、買う値段だけを変えてみると、こうなる。
安く買えれば、満期に戻ってくるお金との差の分だけ得をするので、利回りは上がる。高く買えば、その逆で、利回りは下がる。だから、国債を買いたい人が増えて値段が上がると、利回りは下がる。
計算の手順は、こうだ。95円で買うと、満期に戻る100円との差は5円。これを残りの10年で割ると、1年あたり0.5円の得になる。毎年の利子1円と合わせた1.5円を、払った95円で割ると、約1.58%。これが利回りだ。
実際の国債でも、同じことが起きている。利率3.4%の同じ20年国債が、4月の入札では100円87銭(利回り3.327%)で売れた。5月には96円44銭まで下がり、利回りは3.711%に上がった(財務省)。
例えると、毎年もらえるお年玉の額は決まっているのに、そのお年玉をもらう権利の値段が変わるのに近い。権利を安く買えれば、もらえる割合は大きくなる。高く買えば、割合は小さくなる、というわけだ。
3. フランスの不安で、なぜ日本国債が買われたの?
今、フランスでは、不安が重なっている。
- 2027年の予算案のうち、歳入の部分の採決が、10月20日に見送られた。審議は10月27日に再開する。政府は2026年の赤字を、国の稼ぎ(GDP)の5.4%と見込んでいる
- 10月17日の週末、生活費の高騰への抗議デモが、各地で暴動に発展した。19日には、一部の都市で夜間外出制限が出ている
- 政府は少数与党で、2027年4月には大統領選がある
- 10年国債の利回りは4.9%前後で、ドイツとの差は約1.4〜1.5%。2012年ごろのユーロ危機以来の大きさだという
- 10月23日には、格付け会社のムーディーズが、フランスの評価を見直す予定だ
不安は、フランスだけではない。米国では、AIのデータセンターを貸すコアウィーブの借金に、心配が広がっている。10月14日には、会社が借金のために出した債券(社債)の値段が額面の8割を割りこみ、株価も約15%下がった。
こういうとき、お金は、より安全と見られる場所に移る。これを「質への逃避」という。売られた資産は値段が下がって利回りが上がり、買われた資産は値段が上がって利回りが下がる。今回は、フランス国債への不透明感や、コアウィーブの財務への心配がくすぶる中で、比べると安全とされる日本国債にお金が向かった、と日経は報じている。
4. 借金の多い日本の国債が、なぜ「安全」?
ここで、ふしぎに思うことがある。日本は、借金の多い国だ。
政府の借金は、国の稼ぎの約2倍。フランスの約1.7倍にあたる。国債の「成績表」にあたる格付けでも、日本はフランスより上ではない。
S&Pでは同じ。ムーディーズとフィッチでは、日本のほうが低い。それでも今回、買われたのは日本国債だった。
ちがいは、借金の大きさではなく、借金の中身にある。
日本の国債は、9割近くを国内の銀行や保険会社、日本銀行などが持っている。家計の預金や保険のお金も、銀行や保険会社を通じて、国債を支えている。国内の持ち手は、円で保険金や年金を払うために、円の国債が必要だ。簡単には売らない。
フランスの国債は、約6割を海外の投資家が持っている。海外の投資家は、不安になると売って逃げやすい。しかも、フランスが借りているユーロは、フランスではなく、欧州中央銀行が発行するお金だ。自分の国の通貨で借りていれば、いざとなれば自分の国の中央銀行がお金を発行できるので、返せなくなる心配は小さいとされる。フランスには、その手がない。
例えると、家族から借りているお金と、外の人から借りているお金のちがいに近い。日本は、借金は大きいけれど、ほとんどを家の中から借りていて、家族全体では外にお金を貸している。しかも、お金は自分の家の通貨だ。フランスは、借金は日本より小さいが、6割を外の人から借りていて、家族全体でも外に借りがある、というわけだ。
ただ、家族から借りるのにも限りがある。家の中のお金も、無限ではない。日本の家計の金融資産は2,519兆円あるけれど、いちばん大きな貸し手(家族の大黒柱)の日本銀行は、国債を買う量を減らしている(貸す金額を減らしている)。家の中で借りきれなくなれば、外の人に頼る分が増えていく。
また、たとえとずれるところもある。日本銀行は政府とは別の組織で、国債を買うのは物価を安定させるためだ。それに、「返せなくなる心配が小さい」ことと、「お金の価値が守られる」ことは、別の話だ。円をたくさん刷れば、物価高や円安で、お金の価値は目減りする。
5. 安全なだけでなく、利回りも高くなった
日本国債が買われた理由は、安全だけではない。日経の別の記事は、「金利高一服で買い余力」と伝えている。今年、日本の国債の利回りは、大きく上がってきた。
10年国債の利回りは、10月7日に3.111%と、1996年以来の高さになった。20年は10月6日に3.946%で、1995年以来の高さ。今回の20年国債の利率3.8%も、1996年7月以来の高さだ(財務省)。
利回りが高くなれば、同じお金で国債を買ったときに、満期までに受け取れる割合が大きくなる。新しく売り出す国債の利率も、高く決まる。10月上旬に利回りが高いところまで上がり、そこから少し落ち着いた。買う時期をうかがっていた人が、入札に手をあげた面もあるようだ。
6. それでも消えない心配
安全とされる面がある一方で、心配も消えていない。
日本銀行は、日本国債の4割以上を持つ、いちばん大きな持ち手だ。でも、2023年12月末の約48%から、少しずつ減らしている。9月18日には、政策金利を1.25%に上げた。これからは、日銀のかわりに国債を買う人を、市場で探す時代になる。
20年や30年の国債は、生命保険会社などが主な買い手だった。その買いが一巡し、財務省は2年続けて、20年・30年・40年債を売り出す額を減らしている。今回の好調な入札は、こうした流れの中での明るい話でもある。
7. わたしと国債
わたしは、日本の国債を持っていない。生活に困ったときのための生活防衛資金300万円は、普通預金に置いている。個人向け国債も、今のところ買う予定はない。
個人向け国債は、市場で売り買いする国債とは、少しちがう。発行から1年たてば、直前2回分の利子に当たる額を差し引いて、国が額面で買い取ってくれる。市場の国債のように、値段が上下することはない。そのかわり、利率は市場の金利より少し低めに決まる。
市場の金利が上がると、次の募集の利率も上がる。変動10年は、9月募集の1.95%から、10月募集の2.05%に上がった。
わたしが持っている債券のETFは、米国の債券をまとめたBNDで、日本の国債は入っていない。
8. わたしは、どう思う?
格付けだけで、判断できないものがある。借金の大きさ、だれから借りているか、どの通貨で借りているか、国全体で外国に貸しているのか、借りているのか。いろいろな要素がある。
フランスも、言われるほど危ないとも思えない。不安が落ち着けば、お金の流れはまた変わる。ニュースを見て、20年国債に飛びつかないようにしたい。
and not everything that counts can be counted.
大切なものが、すべて数えられるわけでもない。
アメリカの社会学者、ウィリアム・ブルース・キャメロンが、1963年に出した社会学の入門書『Informal Sociology』の一文だ。社会学者が使うデータが、全部数えられたら楽なのに、という話のあとに続く。アインシュタインの言葉として紹介されることが多いが、名言の出どころを調べるサイトのQuote Investigatorは、キャメロンの言葉とするのがよいとしている。
前半は、数えられるからといって、大切とはかぎらない、という意味だ。たとえば、今回の応札倍率5.84倍は、記録が残る中でいちばん高い数字だ。でも、売り出す額が減ったぶん、高く出やすくなっていた。数字だけを見て「過去最高の人気」と受け取ると、少しずれる。
後半は、大切なのに、数えにくいものがある、という意味だ。日本の国債を持つ国内の銀行や保険会社が、簡単には売らないこと。フランスへの不安という、人の気持ち。どちらも国債の値段を動かしているのに、ひとつの数字にはしにくい。
格付けは、国の借金を、ひとつの記号にまとめた成績表だ。わかりやすい。でも、その記号には入りきらないものもある。
9. まとめ
- 10月20日の20年国債の入札には、値段を競う入札で売れた額の5.84倍の注文が集まった。1987年からの記録で、いちばん高い倍率だ
- 国債の値段と利回りは、シーソーのように逆に動く。買いが集まって値段が上がり、利回りは下がった
- フランスの予算や暴動への不安、米国のAI企業の借金への心配の中で、日本国債にお金が向かったと報じられた
- 格付けでは、日本はフランスと同じか1段低い。それでも、円で借り、9割近くを国内で持ち、国全体では外国に貸している
- 利回りが約30年ぶりの高さになり、買う人にとって魅力が出た面もある
- 金利の上昇や、日銀の買い入れの縮小など、心配も消えていない
- 格付けだけで判断できないものがある。ニュースを見て、20年国債に飛びつかないようにしたい
・入札と金利:財務省(20年国債の入札結果、10月20日)、同(9月15日)、同(国債の入札結果の過去データ)、同(国債金利情報)、日本相互証券
・フランスとコアウィーブ:フランス国債庁(格付け)、同(国債の保有者)、Euronews(2026年10月19日)、TradeTheNews(FXStreet、予算案の採決、2026年10月20日)、Trading Economics(フランス国債の利回り)、ブルームバーグ(コアウィーブ、2026年10月14日)、24/7 Wall St.(コアウィーブの社債、2026年10月14日)
・日本とフランスのくらべ:財務省『債務管理リポート2026』資料編、IMF(政府の借金)、同(財政収支)、同(経常収支)、日本銀行「資金循環統計」、財務省「本邦対外資産負債残高」、同(主要国の対外純資産)、財務省(格付け会社への意見書、2002年)
・心配される面:財務省『ファイナンス』(2026年3月号)、財務省「令和8年度国債発行計画」、日本銀行(2026年9月18日)
・個人向け国債:財務省「個人向け国債の発行条件等」(2026年10月7日)
・格言:ウィリアム・ブルース・キャメロン『Informal Sociology』(1963年)、Quote Investigator
関連記事
新しい記事は X(@harukamuy) でお知らせしています。




