こどもNISAの「ゼロカン」は、ただより高いものはない、なのか? 調べてみた
子ども名義で年60万円まで非課税で投資できる「こどもNISA」。2027年1月に始まるこの制度の口座の受付が、10月1日から楽天証券やSBI証券などで始まった。そして同じ日に、SBI証券が新しい投資信託を発表した。
名前は「SBI・ゼロ・オールカントリー・インデックス・ファンド」、愛称は「ゼロカン」。中身は、全世界の株式にまとめて投資する「オルカン」(三菱UFJアセットマネジメントの「eMAXIS Slim 全世界株式」)と同じだ。そして、持っているあいだにかかる手数料(信託報酬)が、0.00%。こどもNISA専用の商品だ。
ニュースを見て、わたしが最初に思ったのは、どういうこと? どうやって回収するの? ということだった。気になることが、次々に出てくる。
💹「金利の上昇が関係してるの?」
🎂「18歳になっても、無料のまま?」
🤔「途中で改悪されることはないの?」
結論から言うと、回収の中心は、ファンドの外だと読むことができる。オルカンとの手数料の差は、600万円を入れて18年で約9万円。SBI証券を使っているわたしに子どもがいたら、ゼロカンを選ぶ。同じ中身なら、手数料は低いほうが有利だからだ。そのかわり、ゼロカンはほかの証券会社へ持っていけず、18歳を過ぎると買い足せない。払うのはお金ではなく、口座から離れにくくなること。それが、この「ただ」の値段だと思う。順番に見ていく。
1. ゼロカンは、オルカンと何が違うのか
まず、ゼロカンがどんな商品かを確かめておく。
では、0.05775%と0.00%の差は、お金にするといくらなのか。こどもNISAの記事と同じ条件で計算してみた。こどもNISAに入れられるのは年60万円、合計600万円までなので、0歳から毎年60万円を10年入れて、18歳まで持ち続けた場合だ。
年5%で増えた場合、18年で約9万円。入れた600万円に対しては、1.5%ほどだ。オルカンの手数料は、もともとそれだけ低い。
ゼロになるのは、信託報酬だけだ。SBIのリリースの注記には、監査の費用や、株を売り買いするときの手数料などは、これとは別にかかると書いてある。完全に無料というわけではない。
ちなみに、こうしたほかの費用がいくらになるかは、まだ分からない。運用会社の資料にも「事前に料率、上限額などを示すことができません」とある。実際の額は、最初の決算(2027年11月4日)から2か月ほどで出る運用報告書で分かる。分かったら、この記事に追記する。
目安はある。同じ指数に連動するオルカンの運用報告書(2026年4月の決算)では、信託報酬のほかにかかった費用は、株の売り買いの手数料や税金、海外の株の保管費用などを合わせて、年0.027%だった。ゼロカンも、同じ指数に連動して同じ株を持つので、同程度になると考えられる。オルカンにも同じだけかかっているので、差は信託報酬のぶんだけと考えてよい。
2. 手数料ゼロで、どうやって回収するのか
1つ目の疑問、「手数料ゼロで、どうやって回収するの?」。
いちばん気になったところだ。とはいえ、会社が自分のもうけ方まで説明することは、ふつうない。そこで、似た例と決算の数字から考えてみた。
手がかりは、アメリカにあった。運用会社のフィデリティが、2018年に手数料0%のインデックスファンド(株価の指数に連動するファンド)を出している。8年たったいまも0%のままで、いちばん大きいファンドは363億ドル(5兆円あまり)まで育った。
ファンドの中で稼ぐ方法もある。持っている株をほかの会社に貸して、貸し賃を得ることだ。でも、その収入はほとんどない。運営の費用は、運用会社が自分で負担している。つまり、フィデリティは、ファンドそのものでは稼いでいない。
発表の直後、投資信託の評価会社モーニングスターの担当者は、このファンドを「もうけの面では、間違いなく客寄せ商品だ」と評した。たとえに使ったのは、スーパーの奥に置いてある牛乳だ。牛乳を買いに来たお客さんは、店の中を歩くあいだに、ほかのものも買っていく。フィデリティの口座を開いてもらえば、口座に置いたままのお金を自社の投資信託に回したり、ほかの商品を買ってもらったりして稼げる。
ゼロカンを運用するのはSBIアセットマネジメント、売るのはSBI証券で、どちらもSBIグループの会社だ。グループの中心のSBI証券が、どこで稼いでいるかも見てみた。
SBI証券の売上の4割は、金融収益(お金を貸して得る利息など)だ。いちばん大きいのは、お金を借りて株を買う信用取引の金利になる。投資信託の手数料収入は、売上の1割にも届かない。SBIの稼ぎの中心は、もともと投資信託の手数料ではない。
SBIは、2023年に国内株の売買手数料を無料にした。それでも売上は伸びている。「無料にしたら儲からなくなる」ではなく「無料にしたから儲かった」という仕組みは、8月の手数料無料の記事で調べたとおりだ。ゼロカンも、主にファンドの外で回収する商品と読むことができる。
3. 金利の上昇が関係しているのか
2つ目の疑問、「金利の上昇が関係してるの?」。
決算の資料を見ると、追い風になっていることは確かだった。
SBIグループには、銀行もある。SBI新生銀行の資料には「国内金利上昇を受け、収益性は改善傾向」とある。2026年6月末で、貸すときの金利は1.40%、預かるときの金利は0.85%。その差が、銀行のもうけになる。この差を「利ざや」という。
普通預金の記事で見たとおり、大手銀行は、日銀が政策金利(預金やローンの金利のもとになる金利)を上げても、普通預金の金利は4割ほどしか上げてこなかった。金利のある世界では、お客さんのお金を預かると、利ざやが増えていく。
SBI新生銀行の預金で、SBI証券の口座と自動でお金をやりとりできる「SBIハイパー預金」には、1.43兆円が集まっている(2026年6月末)。証券の口座が増えれば、こうした預金も増えていく。
とはいえ、「金利が上がったから、ゼロにできた」と言える資料は見つからなかった。言えるのは、口座を持ってもらうことの値打ちが、金利のある世界では以前より上がっている、というところまでだ。
4. 「手数料ゼロ」は、口座を長く使ってもらう戦略
ここまで見ると、ゼロカンの狙いも見えてくる。ゼロカンは、口座を長く使ってもらう戦略だと考えると、いちばん納得がいく。こどもNISAの決まりとゼロカンの条件が重なって、子どもも親も、SBIから離れにくくなるからだ。
0歳で始めれば、18歳まで18年のつきあいになる。しかも、子どもの口座があるあいだは、登録した親が、自分の口座だけを閉じることはできない。SBI証券のヘルプには「こども口座の親権者として登録されているお客さまの証券口座を廃止することはできません」とある。楽天証券も同じだ。
閉じるには、先に登録をもう一人の親へ変える必要がある。子どもが18歳になるまで、親のどちらかは、その証券会社の口座を持ち続けることになる。子どもが15歳になるまでは、注文も親が代わりに出す。SBIのリリースにも、「ご家族でのNISA制度を活用した資産形成を全力でサポート」とある。
実質、一度決めると、18歳までは動きたくない。そんな仕組みだ。
子どものうちにほかの証券会社へ乗り換えると、ゼロカンの0%を手放し、それまでの利益に税金もかかる。それが、乗り換えの値段になる。経済学では、こうした乗り換えにかかる手間やお金を「スイッチングコスト」と呼ぶ。
乗り換えにくいからこそ、こどもNISAの口座は、各社が特典を用意して最初に取り合っている。並べると、ゼロカンだけ効き方が違うのがよくわかる。
現金やポイントは、口座を開いたときに1回もらって終わりだ。ゼロカンの0%は、持っているあいだずっと続く。
5. 18歳になっても、無料のままなのか
3つ目の疑問、「18歳になっても、無料のまま?」。
調べると、こうなっていた。
大人のNISAに移ったあとは、大人と同じルールになる。売っても、引き出しても、非課税だ。子どものうちに口座を閉じたときのように、さかのぼって税金がかかることもない。NISAの証券会社も、変えられるようになる。
持っているゼロカンは、SBIに置いておけば0%のまま持ち続けられる。でも、ゼロカンを追加で買うことはもうできない。
18歳を過ぎてからは、別の商品を選ぶことになる。その乗り換え先として、SBIは「SBIオールカントリー」を用意している。手数料は0.055%で、オルカンの0.05775%より低い。それでも、ゼロではなくなる。
6. 途中で改悪されることはないのか
4つ目の疑問、「途中で改悪されることはないの?」。
ゼロカンの手数料を将来上げるかどうかについて、リリースには何も書かれていない。そこで、前例を3つに分けて調べた。
手数料を上げるのは、ハードルが高く、前例もない。運用の打ち切りは、小さいファンドの話だ。ゼロカンがどれだけ集まるかは、これからだ。
前例がいちばんはっきりしているのは、ポイントだ。手数料そのものより、そのまわりのおまけのほうが、あとから変わりやすい。ゼロカンには、ポイントがつくという発表もないので、対象外と言ってよさそうだ。
7. わたしの見方
目の前の損を引き受けて、あとで大きな得を取る、という意味の商売のことわざだ。「ただより高いものはない」を、売る側から見た言葉でもある。
ゼロカンは、この形に見える。手数料ゼロという損をSBIが引き受けて、親子との長いつきあいを得る。
わたし自身、SBI証券を2019年から使っている。投資信託を買う手数料も、国内株を売り買いする手数料も、いまは無料だ。日本の高配当株は、1株から買えるS株で少しずつ積み上げてきた。会社を辞めたあとは、確定拠出年金もSBIのiDeCoに移して、NISAや高配当株とまとめて管理している。わたしも、SBIの「ゼロ」の恩恵を受けてきた側だ。
だからではないが、もし子どもがいたら、わたしはゼロカンを選ぶ。
もっとも、それは、いまSBI証券を使っているからだ。新たに口座を作ってまでゼロカンを買いたいかと問われると、正直迷う。各社が競争するのは歓迎だ。でも、特典や9万円のために口座を増やしたり移したりするのは、ちょっと割に合わない気がする。余計な荷物は増やしたくないのが本音だ。
8. まとめ
- SBI証券の「ゼロカン」は、こどもNISA専用で信託報酬0.00%。中身はオルカンと同じ全世界株式
- オルカン(0.05775%)との差は、600万円を入れて18年で約9万円。入れたお金の1.5%ほど
- 回収の中心はファンドの外。フィデリティの0%ファンドも、ファンドそのものでは稼いでいない
- 金利のある世界では、お金を預かる側の利ざやが増える。追い風ではあるが、ゼロの理由とまでは言えない
- ゼロカンはほかの証券会社へ持っていけず、18歳を過ぎると買い足せない。親の口座も必要。家族ごと口座を長く使ってもらう戦略で、払うのはお金ではなく、口座から離れにくくなること
- 手数料の引き上げは前例なし。変わりやすいのは、楽天のカード積立の還元(1%→0.2%)のようなおまけ
- 子どもがいたら、わたしはゼロカンを選ぶ。いまSBIを使っているからで、新たに口座を作ってまでなら迷う
・フィデリティZEROファンド:Morningstar(2018年8月9日)、Fidelity Concord Street Trust 半期報告(SEC)
・SBIの売上・SBI新生銀行・SBIハイパー預金:SBIホールディングス 決算説明会資料(2026年7月31日)
・途中の変更:金融庁「投資信託に関するQ&A」、SBIアセットマネジメントのお知らせ(2026年6月)、楽天証券のお知らせ(2022年2月1日)
・こどもNISA:金融庁 税制改正資料、令和8年度税制改正の大綱、楽天証券「こどもNISAの取引・ルール」、SBI証券 ゼロカン特集ページ(2026年10月1日)、日本証券業協会「NISAに関するQ&A」
・各社のキャンペーン:楽天証券 キャンペーンページ、ケータイWatch(2026年10月1日)、マイナビニュース(2026年10月1日)、マイナビニュース(2026年8月27日)
・口座から離れにくくなる仕組み:SBI証券 ニュースリリース(2026年9月11日)、SBI証券 よくあるご質問(未成年口座のSBIハイパー預金)、ドコモSMTBネット銀行 よくある質問(SBIハイブリッド預金)、SBI証券 よくあるご質問(未成年口座のSBIハイブリッド預金)、SBI証券 ヘルプ「こども口座(未成年口座)」、SBI証券 ヘルプ「こども口座の各種変更手続き」、SBI証券 ヘルプ「口座閉鎖時のご注意事項」、楽天証券「こども口座開設の注意点」、楽天証券 こどもNISAのページ、公正取引委員会 競争政策研究センター「ネットワーク外部性とスイッチングコストの経済分析」(2005年)、マイナビニュース(2026年8月27日)




