アメリカの中間選挙の結果は織り込み済み? AI・防衛・医療など6つの分野で、政治とお金のつながりを見てみた
政治のニュースと、お金のニュース。つながっていると感じることはあるだろうか。
11月3日に、アメリカで中間選挙がある。大統領の任期の真ん中にある、議会の選挙だ。ブルームバーグによると、アメリカの投資のプロたちは、民主党が少なくとも上院か下院のどちらかを取る、とみている。そのうえで、AI、防衛、銀行、仮想通貨など、株や債券(国や会社の借金の証書)が動きそうな8つの分野を挙げていた。
正直、わたしは、選挙でS&P500(アメリカの代表的な500社の株)がどう動いても、投資の方針は変わらない。でも、政治と経済がどうつながっているのかには、興味がある。それに、民主党が何をしようとしているのかも、よく知らなかった。
調べてみると、民主党が勝っても、すぐにAIなどへの規制が強まるわけではなかった。それでも、株はもう動いている。
1. 政治と経済は、どうつながっているの?
アメリカの議会は、上院と下院の2つでできている。議会が持っている力は、大きく4つある。
いちばん大きいのは、お金の力だ。アメリカの憲法では、法律で決めた予算でなければ、国のお金は1ドルも使えない。どんなに大統領が「防衛にお金を使いたい」と言っても、議会がOKを出さなければ使えない。
借金の上限も大事だ。アメリカは、国が借りてよいお金の総額を、法律で決めている。上限に近づくと、引き上げるかどうかで、議会がもめる。
議会の決めごとは、会社のもうけの見込みを変える。国がたくさん借りようとすれば、貸してくれる人を集めるために、金利が上がりやすくなる。選挙は、その決めごとをする人を選び直す日だ。そして株や金利は、結果が出てから動くのではない。「こうなりそうだ」という予想の段階で、もう動きはじめる。
2. 民主党は、何をしようとしているの?
民主党の公式サイトを読むと、まず目に入るのは「費用を下げる」ということばだ。医療を良くする、仕事をつくる、汚職をなくす、民主主義を守る、と続く。民主党の下院のリーダー、ジェフリーズ下院院内総務も「暮らしにかかるお金を下げられるアメリカ」のために戦う、と言っている。食料品やガソリン、住宅の値段のことだ。
共和党の言い分は、ちがう。2025年に大きな減税をして、戻ってくる税金(払いすぎた税金の還付)が増えた、と言っている。同じ「暮らしのお金」でも、民主党は値段を、共和党は税金を見ている。
ここで、大事なことがある。中間選挙で民主党が勝っても、大統領はトランプさんのままだ。大統領は、法案に拒否権を使える。それを覆すには、上院と下院の両方で3分の2の賛成が要る。
だから、民主党が議会を取っても、民主党がやりたい法律は、ほとんど通らない。できるのは、大統領のやりたい法律や予算を「止める」こと、会社や役所を「調べる」こと、予算や借金の上限で「交渉する」ことが中心になる。
「調べる」は、もう始まっている。ブルームバーグが伝えた証券会社エバコアISIの見方では、エヌビディアやアマゾンは、民主党から調査にかかわる問い合わせを受けている。国からお金を出してもらった会社(インテル、IBM、レアアース(スマホなどに使う、とれる量の少ない金属)のMPマテリアルズ)も、調べられるかもしれない。
3. 6つの分野を、ひとつずつ見る
ブルームバーグが挙げた8つの分野のうち、「調べる」の話は2章で触れた。テスラとスペースXの話は省く。残りを、6つの分野に分け直して見ていく。どの分野も、民主党が何をしたいのか、なぜ株や金利が動くのか、選挙の前にどう動いたのか、の順に書く。
国債とドル:金利は、10月の初めから下がっている
民主党の公式の発表には、国の借金を減らす、はっきりした案は見当たらなかった。それでも、国債の金利は、選挙で動くと言われている。
議会が動きにくくなると(たとえば、上院と下院で多数を取る党が分かれると)、大きな減税や、国のお金の使い道を増やす法律が通りにくくなる。国が借りるお金が増えにくくなれば、新しく出る国債も増えにくくなる。売りに出る国債が少なければ、国債の値段は上がりやすく、金利は下がりやすい。国債の値段と金利は、シーソーのように逆に動く。だから昔から、議会が動きにくい状態は、国債には追い風とされてきた。
ただ、ブルームバーグは、今回はその効果が限られる、と伝えている。アメリカの財政赤字(国の収入より支出が多いぶん)は、経済の大きさの約6%もあるからだ。アメリカ財務省によると、2026年度(9月まで)の赤字は、1兆9,925億ドルだった。議会が動きにくくなっても、借金が増えていく流れは止まらない。
ドルについては、見方が分かれている。10月31日の日経新聞は、民主党が上院と下院の両方を取れば、ドル安になりやすい、と伝えていた。ブルームバーグは、上院と下院で多数を取る党が分かれれば、政策が落ち着くという期待から、ドルには追い風になりうる、と伝えている。民主党がどこまで勝つかで、向きが変わりうるということだ。
ブルームバーグは、イランの情勢にも触れている。アメリカとイランのあいだでは、2月にアメリカがイランを攻撃してから、緊張が続いている。トランプ大統領は、選挙のあとに緊張が高まる可能性に言及している。原油などのエネルギーが値上がりして、FRB(アメリカの中央銀行)が利上げに動けば、ドルは強くなりやすい。
アメリカの10年国債の金利は、10月5日の5.31%から、10月30日には4.93%まで下がった。
AIとデータセンター:大統領の拒否権が、壁になる
民主党の下院のリーダー、ジェフリーズ氏は、AIの問題には「議会がすぐに、はっきり動くべきだ」と言う。業界の自主規制にまかせるのはまちがいだ、とも話している。民主党の下院議員は、大手の会社が、地元の役所に「計画を住民に話さない」と約束させていないかを調べはじめた。アマゾン、グーグル、メタ(フェイスブックの会社)、オラクル(企業向けのソフトの会社)が相手だ。
アメリカでは、州ごとにAIの法律をつくる動きもある。共和党とホワイトハウスは、州ごとにばらばらの規制は、技術の足を引っぱる、と言っている。データセンターは電気をたくさん使うので、まわりの電気代が上がる、という心配もある。これについては、ホワイトハウスが、大手7社が電力設備の費用を自分たちで負担すると約束した、と発表している。
AIの会社は、データセンターを次々に建てて、成長しようとしている。規制が強まったり、地元の反対で建てられなくなったりすれば、成長の見込みが下がる。アメリカでは、地元にデータセンターを建てさせないでほしい、という声が強まっている。運用会社インベスコ・アドバイザーズの最高投資責任者は、こうした反発が選挙で多くの票を集める形になれば、成長への影響は大きい、と話している。
それでも、ブルームバーグは、AIに巨額の投資をしている会社への影響は限られそうだ、と伝えている。トランプ大統領が、テクノロジーの業界に不利な法案には拒否権を使う、とみられているからだ。証券会社モルガン・スタンレーで、アメリカの政策を調べている責任者は、こう見ている。大事なのは、国がすぐにデータセンターを規制するかどうかではない。今回の選挙が、2029年に規制の法律を進める足がかりになるかどうかだ、という。2029年には、次の大統領が就任する。次の大統領が規制に前向きなら、拒否権の壁はなくなる。
AIの大手が多いナスダック100は、選挙の直前に大きく下がった。きっかけは、大手の会社の決算だった。
防衛:ドローンの会社は、もう下がっている
民主党は、防衛のお金の使いすぎを問題にしている。下院の軍事委員会の民主党のトップは7月、下院で採決された2027年度(2026年10月から)の防衛の法案について、1.6兆ドルという額が6割もの増加で問題だ、と言った。共和党の委員長は4月に、政権が出した1.5兆ドルの予算の要求を「敵を思いとどまらせる、本当の費用を見込んだ予算だ」と評価していた。ホワイトハウスの2027年度の予算案には、ドローンで優位に立つ、という目標もある。
議会は、国のお金の使い道を決める。民主党が上院・下院の一方でも取れば、国防総省が進めているドローンの大量生産の予算が、危うくなるかもしれない。証券会社のJPモルガンは、逆に共和党が議席を守れば、軍事のお金が増えて、ロッキード・マーチンなど大手の防衛会社には追い風になる、とみている。
ドローンの会社の株は、大きく下がった。一方で、大手の防衛会社ロッキード・マーチンの株は、13.0%上がっている。同じ防衛でも、向きが逆だ。民主党が勝つとみられている中で上がっているので、ロッキード・マーチンは、選挙以外の理由(会社の業績など)のほうが大きそうだ。
医療:病院の株は、上がっている
医療では、2025年に共和党が通した税と歳出(国のお金の使い道)の法律がある。この法律には、低所得の人向けの医療保険(メディケイド)の予算を減らす内容が入っている。アメリカの議会予算局の推計では、国がメディケイドに使うお金は、10年で9,897億ドル(1ドル157.5円で約156兆円)減る。削り方の一つが、入る条件を厳しくすることだ。働ける年齢(19〜64歳)の大人の一部は、月80時間以上、働くか、職業訓練やボランティアをするか、学校に通わないと、メディケイドに入れなくなる。2026年の終わりから始まる。条件を満たしているかの確認も、半年ごとになる。こうした見直し全体で、保険に入っていない人は、2034年度に750万人増える、とみられている。
それから、オバマケア(医療保険の制度)の保険料の補助を手厚くするしくみが、2025年の終わりで切れた。民主党は、メディケイドの削減と、補助の打ち切りを元に戻したいと言っている。共和党は、2025年の法律で、メディケイドの予算を減らし、持続可能な形にした、と言っている。オバマケアの補助についても、考え方がちがう。いまの補助は、国が加入した人のぶんを保険会社に直接払い、そのぶん毎月の保険料が安くなるしくみだ。トランプ大統領は2026年1月に、お金を保険会社ではなく国民に直接渡し、そのお金で自分で保険を選んで買ってもらう、という案を出している。
保険に入っていない人が増えると、治療費を払えない患者が増えて、病院のもうけは減る。削減が元に戻れば、病院には追い風になる。調査会社ウルフ・リサーチは、借金の上限をめぐる交渉で、民主党が医療で成果を求める可能性がある、とみている。病院の会社の株には、選挙の結果しだいで短い期間に上がる余地がある、という見方もある。医療保険の会社には、オバマケアの補助が戻るという期待がある。ただ、補助が戻る可能性は低い、ともみられている。
病院の会社の株は、どれも上がった。医療保険の会社は、まちまちだ。
銀行:大手銀行は、下がっている
民主党の公式の発表の中に、銀行についての、はっきりした案は見当たらなかった。それでも、ブルームバーグは、会社の買収や合併の手伝いで、もうけを伸ばしてきた大手銀行に、厳しい目が向けられるかもしれない、と伝えている。
共和党は、銀行への規制をゆるめるのを好む。JPモルガンのアナリストは、共和党が予想に反して両院を取れば、バンク・オブ・アメリカ、シティグループ、ウェルズ・ファーゴには追い風になる、とみている。一方で、バークレイズのアナリストは、選挙が銀行の検査(ストレステスト)などに効く可能性は低い、とみている。銀行を監督する役所のトップは、この先数年は替わらないとみられるからだ。
3つの銀行とも下がったが、下がり方には大きな差がある。
仮想通貨:9月から、もうぶつかっている
9月に、仮想通貨のルールを決める法案(クラリティ法案)が、上院で止まった。
反対が1票多かっただけに見えるが、上院では、先へ進むのに60票が要る。民主党が反対にまわると、法案は進められない。民主党のウォーレン上院議員は「両方の党が賛成できる法律はつくれる。でも、この法案ではない」と話した。共和党の上院のリーダー、スーン氏は「民主党は、この法案を受け入れるのか」と迫っている。
ブルームバーグは、民主党が主導権を握れば、業界を後押しする法律は、さらに通りにくくなる、と伝えている。仮想通貨の会社は、業界とトランプ大統領の一族との近い関係をめぐって、議会から厳しく問われる可能性も高い、という。
法案が止まった9月15日、コインベースの株は1日で10.1%下がった。そのあと、いったんは戻している。10月に入ってからまた下がり、8月28日からでは19.6%下がった。
ここで、ひとつ疑問がわいてくる。予想が、もう値段に入っている(織り込まれている)なら、結果が出たら、どうなるのだろう。予想どおりなら、あまり動かないかもしれない。予想とちがえば、大きく動くかもしれない。
ブルームバーグは、多くの投資のプロが「どちらの党も大勝しない」という前提で構えている、とも伝えている。そのぶん、結果が大きく外れると、構えていた人たちは大きな影響を受けやすい。
そこで、選挙の直前の値を残しておく。結果が出たら、この表に「選挙のあと」を足していく。
4. わたしの持ち物では?
わたしの持ち物にも、このうち3つの分野に関係するものがある。
オルカン(世界の株にまとめて投資する商品)とS&P500には、AIの大手の会社がたくさん入っている。BNDは、アメリカの債券をまとめて持つETF(株のように売り買いできる投資信託。投資信託は、たくさんの人のお金をまとめてプロが運用する商品)で、国債の金利が下がると値段が上がる。ビットコインは、仮想通貨の代表だ。
それでも、わたしは方針を変えない。オルカンの積み立ても、iDeCoのS&P500も続ける。BNDもビットコインも、そのまま持ち続ける。選挙の結果がどちらでも、世界の株にまとめて投資していれば、上がる分野も下がる分野も、どちらも持っていることになる。
ただ、どう動いていくのかには、単純に興味がある。だから、この記事に答え合わせを足していく。
- 1回目:選挙の結果が出たあと(11月5日ごろ)
- 2回目:1か月後(12月の初め)
選挙の当日だけ動いたのか、そのあとも続いたのか。予想が当たった分野と、外れた分野はどこか。数字で見ていく。
ニューヨークの裁判官、ギデオン・J・タッカーが、1866年の判決文に引用した言い回しだ。タッカーが考えたことばではなく、当時すでに知られていた。
裁判は、遺産の手続きの計算に、まちがいがあったという話だった。手続きをした人は、前の年に議会が変えた法律を、確かめていなかった。タッカーは、この人はこの言い回しを忘れていたのだろう、と書き添えている。
タッカーが言いたかったのは、法律は議会が開かれるたびに変わる、ということだ。
議会の決めごとで、株や金利は動く。わたしの方針は変わらない。でも、どう動いていくのかは、見ておきたい。その記録を、この記事に足していく。
5. まとめ
- 議会は、国のお金の使い道とルールを決め、会社を呼んで調べることもできる。株や金利は、その「決まりそうだ」で動く
- 民主党の合言葉は「暮らしにかかるお金を下げる」。AIへの監督の強化や、医療の補助を元に戻すことを掲げている
- 大統領はトランプさんのまま。民主党が勝っても、できるのは「止める」「調べる」「予算で交渉する」が中心になる
- アメリカの投資のプロたちは、国債・AI・防衛・医療・銀行・仮想通貨などで、動きを予想している
- 選挙の前から、ドローンや大手銀行の株は下がり、病院の株は上がっていた
- わたしは方針を変えない。選挙の結果が出たあとと、その1か月後の2回、この記事に答え合わせを足していく
・ドルの別の見方:日本経済新聞「アメリカ中間選挙『ブルーウェーブ』でドル安・金利低下 民主勝利が有力視」(10月31日)
・議会のしくみ:アメリカ国立公文書館「The Constitution of the United States」、アメリカ財務省「Debt Limit」、アメリカ議会調査局「Congressional Subpoenas」(2019年3月27日)
・民主党の主張:民主党全国委員会、ジェフリーズ下院院内総務(2026年7月23日)、同(9月14日)、同(9月29日、PBS)、下院司法委員会の民主党(9月30日)、下院軍事委員会の民主党(7月22日)
・共和党の主張:共和党全国下院委員会(2026年7月2日)、ホワイトハウス(3月20日)、同(3月4日)、同(1月15日)、下院軍事委員会(4月29日)、2027年度の予算教書
・仮想通貨の法案の採決:アメリカ議会の公式記録(2026年9月15日)、ウォーレン上院議員の発言(同日)、スーン上院院内総務の発言(同日)
・医療:アメリカ議会調査局(2025年8月18日、議会予算局の推計)、同(2026年1月14日)
・株・金利・ドルの値段:Yahoo Finance
・格言:Barry Popik「No man's life, liberty, or property are safe while the Legislature is in session」(原典は、ニューヨーク郡の遺言検認裁判所の判例集 第1巻、1870年、247〜249ページ)
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