家計のお金は5年で増えた。でも、上のほうほど大きく伸びていた
「平均◯◯万円」というニュースを見て、自分だけ置いていかれた気がしたことはないだろうか。
第一ライフ資産運用経済研究所が10月28日に出したレポートによると、2019年から2024年にかけて、日本の家計の金融資産(預貯金や株、投資信託などの合計)は、多くの世代で増えた。10年前に同じ年齢だった人たちとくらべても、多い。
でも、増え方は一様ではない。平均を押し上げたのは、主に上のほうの世帯で、真ん中や下のほうは、それほど動いていない。
2019年は、わたしが投資を始めた年でもある。この5年間を、自分の数字と重ねて読んでみた。
1. 家計のお金は、10年前の同じ年齢の人より多くなった
レポートを書いたのは、第一ライフ資産運用経済研究所の星野卓也さん。総務省が5年ごとに行う「全国家計構造調査」を使って、生まれた年代ごとに、金融資産の平均がどう変わってきたかを調べている。
同じ家を5年ごとに訪ねた調査ではない。調査のたびに、選ばれる世帯はちがう。その中から同じ年代に生まれた人たちの平均を拾って、5年ごとにつなぎ、世代の歩みとして描いている。
くらべる相手は、10年前に同じ年齢だった人たちだ。たとえば、2024年の50代前半は、2014年に50代前半だった人たちとくらべる。その人たちは、いまは60代前半になっている。いまの60代前半の暮らしとくらべているわけではない。表の3行は、どれもこのくらべ方だ。
2024年の40代前半は、10年前の40代前半より292万円多い。60代前半も、10年前の60代前半より441万円多い。理由としてレポートが挙げているのは、賃金の上昇、老後への不安、投資ブームで株や投資信託にお金が移ったこと、そして株高だ。
中身も変わった。金融資産のうち、株や投資信託などの有価証券が占める割合は、すべての世代で上がっている。いちばん急なのは1980〜84年生まれ(2024年に40〜44歳)で、5年で約9%から約25%へ、ほぼ3倍になった。
ただ、この割合には、新しく買ったぶんだけでなく、持っている株が値上がりしたぶんも入っている。レポートも、そこは断っている。
2. 平均は増えた。でも、真ん中はそれほどでもない
平均だけを見ると、みんなが豊かになったように見える。でもレポートは、同じ年代の中で、金額がどう散らばっているかも調べている。
ここからは、5年前とのくらべ方になる。2019年の35〜44歳と、2024年の35〜44歳をくらべると、こうなる。55〜64歳も並べておく。
55〜64歳では、平均が369万円増えたのに、真ん中の金額は44万円しか上がっていない。上から10%のところの金額は、880万円も上がった。年齢を区切らずに、すべての世帯で見ても、真ん中の金額は約78万円上がっただけなのに、上から10%のところの金額は約520万円上がっている。さらに、どの年代でも、下のほう(下から10%や25%のところの世帯)は、ほとんど動いていないという。
例えると、10人のクラスのおこづかいに近い。下の3人は変わらず、真ん中の4人は100円ずつ、上の3人は1,000円ずつ増えたとする。クラスの平均は340円増える。でも、真ん中の子は100円しか増えていない。
だから、「格差は広がったの?」という問いの答えは、はい、になる。レポートの言葉では、「資産格差は緩やかに広がっている」。
ただ、金額で見ると、下が減ったわけではない。下はその場にとどまり、上が大きく伸びた。とはいえ、この5年で物価は上がっている。金額がその場にとどまったということは、買えるものが少し減っているということだ。
3. 50代前半には、追い風が届きにくかった
世代でくらべると、目立つ例外がある。2024年に50〜54歳だった世代だ。1970〜74年生まれで、就職氷河期世代を含む。
この世代の平均は約1,396万円で、10年前の50代前半(約1,384万円)とほとんど変わらない。2019年に45〜49歳だった人たちの平均よりは、約373万円多い。それでも、ほかの世代のように、10年前の同じ年齢の人たちを大きく上回るほどではなかった。
その背景のひとつとして、レポートは、毎月の家計の黒字(手取りから生活費を引いて、残るお金)を見ている。45〜49歳から50〜54歳になる5年間で、黒字がどれだけ増えたかを、10年前に同じ年齢を通った人たちとくらべたものだ。
2024年の50代前半は、賃上げが進んで、手取りの増え方は10年前の人たちより大きかった。でも、物価が上がって生活費も大きく増えたため、毎月残るお金の増え方は、10年前の人たちの月1.3万円より少ない、月0.5万円にとどまっている。
わたしが会社員だったころ、職場の主力は、ちょうどこの年代の先輩たちだった。
この世代は、就職が厳しい時代に社会に出て、給料が上がりにくい時期を長く過ごしてきた。レポートも「所得環境の厳しかった」世代と書いている。ようやく給料が上がりはじめたところで、物価も上がった。わたしは、がんばりの差ではなく、巡り合わせの差だと思う。
それでも、この世代も、株や投資信託の割合は増えている。5年で約14%から約22%へ上がった。
4. 正直に言うと、わたしは「上のほう」にいる
ここで、自分の数字を見てみる。
2024年末の時点で、わたしの証券口座には3,819万円あった。レポートに出てくる数字でいちばん大きい、60代前半の平均(約2,379万円)よりも多い。わたしは、上のほうに伸びた側にいる。
増えたぶんの中身も、書いておく。給料や仕事の収入から積み立てたお金。2023年に会社を辞めたときの退職金。会社の確定拠出年金(会社で積み立てる年金)から、iDeCo(自分で積み立てる年金)に移したお金。そして、株の値上がりだ。
やったことは、S&P500(アメリカの代表的な500社)やオルカン(世界の株にまとめて投資する商品)の投資信託を買って、持ち続けたこと。2023年からは、日本の高配当株も本格的に買いはじめた。特別な才能や情報があったわけではない。5年間の株高という追い風を、まともに受けた。
気づいたことがある。株高の追い風は、株を持っている人しか受けられない。わたしは、2019年に投資を始めていて、そのあと5年間、株高が続いた。株高の追い風を受けられたのは、単純にまぐれとしか言いようがない。
2021年からの推移は、資産1,300万円が5年で4,886万円になった記録にくわしく書いている。
5. 平均とくらべて、焦らなくていい
「平均◯◯万円」というニュースの数字は、上のほうに引っぱられている。金額で見ると、平均にとどいていない世帯のほうが多い。
それでも、追い風を受ける方法はある。少しでも株を持っていれば、少しは受けられる。わたしがオルカンの積み立てを続けているのは、自分の力ではなく、世界の経済の成長から、追い風を受けるためだ。
古代ギリシャの哲学者、エピクロスの言葉だ。
エピクロスは、紀元前341年ごろに生まれ、アテネに「庭園」と呼ばれる学びの場を開いて、仲間と暮らした。この言葉は、1888年に、ヴァチカン図書館の古い写本から見つかった短い言葉のひとつだ。
エピクロスは、快楽を大事にした人として知られている。でも、ここでいう快楽は、ぜいたくではない。心が乱されず、からだに痛みがない状態のことだ。
そのためにエピクロスは、人の欲を3つに分けた。1つめは、生きるのに欠かせない欲。のどがかわいたら水を飲む、といったものだ。2つめは、自然だけれど、なくても困らない欲。ごちそうを食べたい、など。3つめは、思い込みから生まれる欲で、古い注釈は、名誉の冠や自分をたたえる像を例に挙げている。3つめの欲には、きりがない。手に入れても、すぐに次がほしくなる。
エピクロス自身は、パンと水で満足していた、と手紙に書いている。それでいて、手紙の中で「チーズを小さなつぼで送ってほしい。好きなときに、ぜいたくができるように」と頼んでもいる。
がまんを説いたわけではない。エピクロスは、少しのもので満ち足りていられることを大事にした。いつも少しで済ませるためではなく、多くを持っていないときにも、心が乱されないためだ。ぜいたくをいちばん楽しめるのは、ぜいたくをいちばん必要としない人だ、とも書いている。
この格言は、その考えを一文にしたものだと思う。前半は、持っていないものばかり見ていると、いま持っているものまで色あせる、という戒め。後半がいい。いま持っているものも、かつては「いつか手に入れば」と願っていたものだった、と思い出させてくれる。
平均のニュースは、「まだ持っていないもの」を見せてくる。上のほうにいる人も、さらに上を見れば、きりがない。でも、5年前の自分が願っていたものを、いま手にしているかもしれない。
わたしは、格差が広がっている、という事実は事実として受けとめる。そのうえで、まずはいまの自分を大事にする。そして、5年後、10年後の自分を描いていこう。
6. まとめ
- 2024年の家計の金融資産は、多くの世代で、10年前に同じ年齢だった人たちより多かった
- 1980〜84年生まれは、金融資産のうち株や投資信託の割合が、5年で約9%から約25%へ上がった
- 35〜44歳では、平均が305万円増えたのに、真ん中の世帯は133万円増。下のほうは、ほとんど動いていない
- 金額で見ると、格差は下が減ったからではなく、上のほうが大きく伸びたから広がった
- 50代前半は、物価が上がって生活費も大きく増えたため、毎月残るお金の増え方が、10年前の50代前半の半分以下だった
- わたしは、上のほうに伸びた側。株高の追い風は、株を持っている人しか受けられない
- 平均とくらべて焦らなくていい。まずはいまの自分を大事にする
・もとの調査:総務省統計局「令和6年全国家計構造調査」
・格言:Epicurus「Vatican Sayings」35(Peter Saint-Andre による英訳とギリシャ語の原文)
・ヴァチカン写本の発見:Epicurus Wiki「Vatican Sayings」
・エピクロスの欲の分け方・パンと水とチーズの話・メノイケウスへの手紙:ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』第10巻(R. D. Hicks による英訳)
関連記事
新しい記事は X(@harukamuy) でお知らせしています。





