健康・仕事・お金・時間、すべてがそろうタイミングはない。50代の「不安の重なり」から考えた
10月17日、TBS CROSS DIGに「50代が陥る仕事と健康のジレンマ」という記事が載った。もとは、ニッセイ基礎研究所のレポートだ。
わたしは、50代は、老後、健康、仕事、子離れなど、いろいろなことがある年代だと感じている。ある程度健康で、仕事の経験も豊富。お金も時間も、多少の余裕がある。ただ、親が高齢で介護の問題が出てきたり、老後の資産のことを気にしたりと、心配事は多いのかもしれない。
わたしは30代だ。でも、仕事・健康・お金がぶつかることは、めっちゃある。50代の人たちは、何に不安を感じているのか。調べてみた。
1. 50代前半は、何が不安なの?
ニッセイ基礎研究所は、2025年に、20代から70代の4,073人に、くらしの不安を聞いた(インターネット調査)。そのうち、50〜54歳は448人だ。
5段階の答えのうち、いちばん強い「不安である」を選んだ人の割合を見ると、こうなる。
いちばん多いのは物価の上昇で、半分近い。調査をした2025年7月は、消費者物価が前の年より3.1%上がっていた。老後のお金、認知症、体の衰えが、3割前後で続く。
年代で比べると、仕事の不安は、年齢が上がると小さくなる傾向がある。一方で、健康の不安は、30代や40代にもある。50代から急に始まるわけではない。
ただ、体の衰えは、50代で一段上がる。
2. 不安は、重なるの?
ここからが、このレポートの本題だ。仕事を心配している人と、健康や老後を心配している人は、同じ人なのか。
レポートは、仕事の不安(賃金、能力の衰え、心の健康、働きすぎによる体の健康)と、健康・老後の不安(老後のお金、体の機能、認知症、頼れる人がいなくなる)を、それぞれ4つずつ取り出した。働いている人のうち、仕事の側で2つ以上、さらに健康・老後の側でも2つ以上に「不安である」と答えた人を、「不安が重なる人」として数えている。
50代前半では、働いている人の6人に1人くらいが、仕事の不安と、健康・老後の不安を、両方強く抱えていた。数字の上では、50代前半がいちばん高い。ただ、年代の差は、統計的にははっきりしない、とレポートは書いている。
30代でも、13.0%いる。
3. 不安が多いと、どうなるの?
強い不安をたくさん抱えている人ほど、今の生活に満足していなかった。ここでいう「不安が多い」は、2章の「重なる人」とは別の数え方だ。仕事以外の不安の項目のうち、「不安である」と答えた項目がどれくらいあったかで、50〜54歳の人を4つに分けている。
強い不安が少ない人(いちばん上の段)では、生活に満足していない人は2割弱。強い不安が多い下の2つの段では、4割をこえる。いちばん不安が多い段は、少しだけ下がっているが、人数が少ない。年齢や資産、健康の状態などをそろえて計算しても、この傾向は残った、とレポートは書いている。
4. 何が、つらいの?
レポートの見立ては、こうだ。50代のつらさは、不安が一度に増えることより、性質のちがう不安に同時に向き合い、それぞれへの対応を「調整」していくことから生まれるのではないか。
たとえば、健康のために働く時間を減らしたい。でも、収入や老後のお金を考えると、働く時間を減らしにくい。1つの心配への対応が、別の心配への対応を難しくする。
要は、こういうことだ。旅行の荷造りに近い。スーツケースの大きさは決まっている。着替えを増やせば、お土産を入れる場所がなくなる。お土産を入れれば、何かを置いていくことになる。入れたいものの多さだけでなく、何を入れて何を置いていくか、詰め直すこと自体に疲れる、というわけだ。
子離れも、スーツケースの中身を入れかえる出来事の1つだと思う。わたしには子どもがいないけれど、だいたい30代で子どもをもち、50代で子どもが巣立って夫婦2人になる、というのは、よくあることなのかなと想像する。
数字で見ると、今の50代が親になったころ、第1子を産む母の平均年齢は、わたしの想像より少し若く、27〜29歳くらいだった(1995〜2005年、厚生労働省)。子どもが大学を出る22歳になるのは、母が50歳前後のころになる。ただ、ニッセイの調査では、50〜54歳で子どもがいる人は半分ほどだった。50代のスーツケースの中身は、人によってちがう。
5. 30代のわたしは?
今は、ある意味、バランスが良い状態だ。それでも、冒頭に書いたとおり、仕事・健康・お金がぶつかることは、めっちゃある。
お金を使って遊び放題、というわけにもいかない。だから、使うところでためらっている。もうちょっと、もうちょっと、と言っているうちに、あっという間に40代、なんてことも想像する。
ビル・パーキンスの『DIE WITH ZERO』という本がある。わたしは一度読んで、今も枕元に置いている。
お金、健康、時間の3つは、人生の時期によって、そろい方がちがう。若いころは、健康と時間はあっても、お金が少ない。働き盛りは、お金と健康はあっても、時間が少ない。年をとると、お金と時間はあっても、健康が衰えていく。だから、やりたいことには「賞味期限」がある。この本は、そう言っている。
6. わたしは、どう思う?
人生は、一度きりだ。すべてがそろうタイミングはない。
nec inopes eius sed prodigi sumus.
短くしているのだ。
時間が足りないのではなく、むだづかいしているのだ。
ローマの哲学者セネカが、紀元49年ごろに書いたとされる『人生の短さについて』の冒頭近くの一節だ。セネカは、のちに皇帝となるネロの家庭教師をつとめた人。この文章は、ローマの食料の管理をまかされていた、パウリヌスという人に宛てて書かれている。
セネカは、人生が短いと嘆く人たちに、こう言う。人生は、使い方を知っていれば、十分に長い。でも、わたしたちは、いつかやろう、と先のばしにしたり、どうでもいいことに時間を使ったりして、自分で短くしている。人は、お金を守ることにはケチなのに、時間はいちばん気前よく手放してしまう、とも書いている。
正解はない。でも、すべては有限だ。だから、悔いのない人生を。
7. まとめ
- 50〜54歳がいちばん強く不安に感じているのは物価の上昇(47.1%)。老後のお金、認知症、体の衰えが3割前後で続く
- 体の機能が落ちることへの不安は、40代の21.9%から、50代前半で29.2%に上がる
- 働いている人のうち、仕事と、健康・老後の不安を両方強く抱える人は、50代前半で16.1%。30代でも13.0%いる
- 強い不安が多い人ほど、今の生活に満足していない。つらさは、不安の多さだけでなく、ぶつかり合う不安への対応を「調整すること」からも生まれるのでは、とレポートは見ている
- わたしは今、ある意味バランスが良い。それでも、お金を使って遊び放題とはいかず、使うところでためらっている
- 人生は一度きり。すべてがそろうタイミングはない。正解はない。でも、すべては有限。だから、悔いのない人生を
・ニッセイ基礎研究所:小口裕「『ミッドライフクライシス』は、不安の多さだけではない」(2026年10月8日)、「50代前半は、何を不安に感じているのか」(2026年9月10日)、「50代は『人生の折り返し』なのか」(2026年8月19日)
・人口動態統計:厚生労働省「令和7(2025)年人口動態統計月報年計(概数)」
・本:ビル・パーキンス『DIE WITH ZERO』(ダイヤモンド社)
・格言:セネカ『人生の短さについて』(De Brevitate Vitae)第1章。日本語は、原文の意味をわかりやすく訳したもの
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