アメリカで破産が7年ぶりの多さ。金利やAIのニュースの裏で、暮らしは実際どうなの?
アメリカの景気、いいと思うだろうか、悪いと思うだろうか。
10月28日の日本経済新聞に、こんな見出しが載った。「米国の個人破産がコロナ後最高」。2026年1〜9月の個人の破産の申し立ては約44万4,000件で、前の年の同じ時期より11%多い。同じ時期としては、2019年以来、7年ぶりの多さだという。
アメリカのニュースは、金利の話や、AIへの大きな投資の話でいっぱいだ。でも、わたしが気になっているのは、足元の景気のほうだ。人々の暮らしは、実際どうなのか。格差は広がっているのか。深刻に心配しているわけではない。ちょっと気になる、くらいの軽い気持ちで、数字を集めてみた。
🏙️「アメリカの景気は、悪いの?」
⚖️「格差は、広がっているの?」
🗾「日本は、どうなの?」
🐾「わたしは、どうする?」
1. 破産は、どれくらい増えたの?
数字を集めているのは、破産のデータを扱うエピックAACERという会社だ。2026年1〜9月の個人の破産の申し立ては44万4,252件。前の年の同じ時期(39万9,379件)より11%多い。
アメリカの個人の破産には、おもに2つの種類がある。財産を手放して借金を整理する「チャプター7」と、返す計画を立て直して分けて返す「チャプター13」だ。今回は、チャプター7が13%、チャプター13が8%増えている。
エピックAACERの副社長は、理由として「借りたお金の利息が高いこと、家計の出費が増えていること、返済の遅れが増えていること、仕事が見つけにくくなっていること」を挙げている。
では、長い目で見ると、どうか。
2005年の駆け込みのあとで、いちばん多かったのは、リーマン・ショックのあとの2010年の約154万件だ。そこから減りつづけて、コロナのころの2022年には約37万件まで下がった。コロナのあいだは、ローンの返済を待ってもらえる仕組みや、国からの給付金があった。
2023年からは、また増えている。2025年は約55万件。それでも、2010年の3分の1ほどで、コロナ前の2019年(約75万件)にも届いていない。
「7年ぶりの多さ」は事実だ。でも、「過去最悪」というわけではない。コロナで一度ぐっと減った件数が、もとの水準に戻りつつある、というほうが近い。
2. アメリカの景気は、悪いの?
では、暮らしの「平均」の数字を見てみる。
失業率は4.2%と低く、1年前より下がっている。使ったお金も、物価の上がり分を除いて2.6%増えている。この2つだけを見れば、景気は悪くない。
一方で、物価は3.7%上がった。ガソリンは1年で34%上がっている。給料も上がってはいるけれど、物価の上がり分を除くと、時給は0.7%減った。貯蓄率は、1年前の5.2%から4.1%に下がっている。
ふつうの人が感じている景気は、どうか。ミシガン大学は、毎月、アメリカの人たちに「家計は1年前よりよくなったか」「これから景気はよくなると思うか」などをたずねて、1つの数字にまとめている。消費者信頼感指数という。いまは48.0だ。1952年から続く統計で、いちばん低かったのは、今年5月の44.8だ。コロナで経済が止まった2020年4月でも71.8あった。いまは、それよりずっと低い。
例えると、仕事はあるのに、給料が物価に追いつかず、貯金に回す分を減らして暮らしを回している家計に近い。
3. 格差は、広がっているの?
平均の数字だけでは、見えないものがある。まず、お金を返せなくなっている人が増えている。
クレジットカードの金利は、年21〜22%ほどだ。返せずに残った分に、この利息がかかる。カードで返済が遅れている割合は、リーマン・ショックのあとの最高に近い。
格差がはっきり出ているのは、資産のほうだ。
いちばん資産の多い1%の人が、アメリカ全体の資産の32.5%を持っている。1989年に始まったこの統計で、いちばん高い(1989年は22.8%)。いちばん資産の少ない半分の人(グラフの下位50%)が持つのは、2.3%だけだ。
ただ、10年前と比べると、少しちがう景色も見えてくる。下の半分の人の割合は、10年前の1.2%から2.3%へ、ほぼ倍になった。金額では1.04兆ドルから4.28兆ドルと、4.1倍に増えている。上位1%(2.3倍)よりも、伸びは大きい。
それでも、増えた金額で見ると、差は大きく開いた。この10年で、上位1%の資産は33.9兆ドル増え、下の半分は3.2兆ドル増えた。人数は下の半分のほうが50倍多いのに、増えた額は10分の1ほどだ。割合では差が縮んでも、金額では差が広がっている。
株と投資信託は、もっとかたよっている。上位10%の人が88%を持ち、下の半分の人は0.6%しか持っていない。株が上がると、増えるのは、株を持つ人の資産だ。
給料の伸び方にも、差がある。アトランタ連邦準備銀行は、同じ人の給料が1年でどれだけ伸びたかを調べている。2026年9月までの1年で、給料の低い4分の1の人の伸びは3.4%で、物価の上がり方(3.7%)に負けている。給料の高い4分の1の人は3.8%で、物価をわずかに上回っている。
4. 日本は、どうなの?
東京商工リサーチが最高裁判所の統計をもとにまとめた数字では、2025年の日本の個人の破産の申し立ては約8万3,100件。3年続けて増えて、8万件台は2012年以来だ。
ただ、いちばん多かった2003年は約24万3,000件だった。いまは、その3分の1ほどにあたる。アメリカと同じで、増えてはいるけれど、ピークからはまだ遠い。
5. わたしの見方
アメリカの景気は、「平均」で見れば悪くない。仕事はあり、使うお金も増えている。でも、物価に給料が追いつかず、返済に困る人が増え、景気の実感は統計で最低に近い。そして、資産は、株を持つ人のほうへ集まっている。
アメリカのケネディ大統領は、1963年10月、アーカンソー州のダムの完成式で、こう話している。
すべての船を持ち上げる。
ジョン・F・ケネディ グリアーズ・フェリー・ダム完成式の演説(1963年)
このダムは、国のお金で造られた。ケネディは、この地域が豊かになれば、アメリカ全体も豊かになる、だからこれは国の人々による国への投資だ、と続けている。1つの地域を豊かにすることは、ほかの地域から取ることではない。全体を持ち上げることだ、という意味で使った言葉だ。
ケネディにとっての「上げ潮」は、経済全体が豊かになることだった。いまのアメリカも、経済そのものは伸びている。でも、その豊かさは、みんなに同じようには届いていない。潮が満ちても、乗る船を持っていなければ、持ち上がらない。
格差の大きな流れを、わたし1人で変えることはできない。わたしにできるのは、上げ潮に乗る自分の船を持っておくことだ。
潮がいつ満ちて、いつ引くのかは、わからない。株は、大きく下がる年もある。それでも、物の値段が上がっていく時代に、お金を置いておくだけでは、買えるものが少しずつ減っていく。わたしにとっての船は、アメリカと世界の会社を少しずつまとめて持てる、オルカンとS&P500だ。
潮が引く日があっても、船はおりない。これからも、コツコツと積み立てを続けていく。
6. まとめ
- アメリカの個人の破産は2026年1〜9月で約44万4,000件。前年の同じ時期より11%多く、7年ぶりの多さ
- ただ、1年間で見ると、2025年の約55万件は2010年の3分の1ほど。コロナで減った件数が、もとの水準に戻りつつある段階
- 失業率は4.2%と低く、使うお金も増えている。でも、物価を除いた時給は0.7%減り、景気の実感は統計で最低に近い
- カードの返済の遅れは、リーマン・ショック後の最高に近い。カードの金利は年21〜22%ほど
- 経済の伸びは、みんなに同じには届いていない。上位1%が持つ資産の割合は統計で最高、株と投資信託の88%は上位10%が持つ
- 日本の個人の破産も3年続けて増え、2025年は約8.3万件。2003年の3分の1ほど
- わたしは、オルカンとS&P500の積み立てを続ける。いつもと変わらない
・破産の件数:エピックAACERの発表(2026年10月8日)、アメリカの裁判所(2025年)、同(2009〜2011年)、同(2005年)、同(2015年)、同(2019年)、同(2020年)
・失業率・物価・時給:米労働統計局(雇用統計)、同(消費者物価)、同(実質賃金)
・使ったお金と貯蓄率:米商務省経済分析局(2026年8月分)
・景気の実感:ミシガン大学 消費者信頼感指数
・返済の遅れ:ニューヨーク連邦準備銀行(2026年4〜6月)、カードの金利は連邦準備制度 G.19
・資産の分かれ方:連邦準備制度 Distributional Financial Accounts
・給料の伸び:アトランタ連邦準備銀行 Wage Growth Tracker
・日本の破産:東京商工リサーチ(最高裁判所の司法統計をもとに集計)
・格言:The American Presidency Project「Remarks in Heber Springs, Arkansas, at the Dedication of Greers Ferry Dam」(1963年10月3日)(訳はわたし)
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