harukamuy
GMOが身代金を拒否。狙われたのは証券会社ではなく、利用者が「預けた鍵」だった
ニュース📖 約13分で読めます

GMOが身代金を拒否。狙われたのは証券会社ではなく、利用者が「預けた鍵」だった

※本記事にはアフィリエイト広告(プロモーション)が含まれています
ごまもち
🐾 ごまもち
わるいひとが、お金をよこせって いってるの?🐾
あずき
あずき
そうみたい。でも、GMOは払わないって決めたんだよ。

証券口座のパスワード、どこに置いているだろうか。

10月21日、GMOインターネットが、FX(外国のお金の売り買い)の自動売買に使うサーバーの貸し出しサービスに、不正アクセスがあったと発表した。サーバーに保存されていた、証券会社やFX会社のログイン情報が盗まれた可能性がある。攻撃側はお金を要求していて、報道によると、期限は10月27日の正午。GMOは24日、要求には応じないと発表した。

わたしはSBI証券を使っている。他人ごとではないと思った。

🔓「何が起きたの?」
💸「なぜ、身代金を払わないの?」
📉「株価と、これからどうなる?」
🔐「わたしの口座は、どう守る?」
先に答えを言うと
🔓「何が起きたの?」
→ FX自動売買用のサーバー26,739件に影響の可能性。利用者がそこに保存していた、証券・FX口座のログイン情報が盗まれ、不正な取引に使われたおそれがある
💸「なぜ、身代金を払わないの?」
→ 払っても、盗まれた情報が消される保証はないから。かわりに、全利用者に5,000円の見舞金と、不正取引の損失の補償を約束した
📉「株価と、これからどうなる?」
→ GMOグループの株は、発表のあと大きく下がった。GMOは、国が攻撃元を止めるしくみ「能動的サイバー防御」の発動を求めたが、使うかどうかは国が決める
🔐「わたしの口座は、どう守る?」
→ わたしは、指紋や顔でログインする「パスキー」を使い、取引のときのパスワードはパスワード管理アプリに入れている。自動売買のサーバーは使っていないので、今回の経路とは関係しない
順番に見ていく。

1. 何が起きたの?

狙われたのは、GMOインターネットの「お名前.com デスクトップクラウド」というサービスだ。FXの自動売買を24時間動かすために借りる、ネット上のパソコンだ。ここでは「サーバー」と呼ぶ。

自動売買のプログラムは、利用者の代わりに、証券会社やFX会社にログインして取引する。そのため、利用者は、そのサーバーの中に、口座のIDやパスワードを保存しておく。そこが狙われた。

🔑 どこが破られたのか
利用者
自動売買のために、サーバーを借りる
↓ 🔑 口座のIDとパスワードを預ける
GMOから借りたサーバー
預かったIDとパスワードで、自動売買のプログラムが24時間動く
ここが破られ、預けていたIDとパスワードが盗まれた
↓ 利用者の代わりにログイン
証券会社・FX会社の口座
証券会社そのものが破られたわけではない

例えると、家事代行に近い。留守のあいだに掃除をしてもらうために、家の鍵を、家事代行の会社に預けておく。今回は、その会社の事務所に泥棒が入り、預かっていた鍵がまとめて盗まれた。ドアの鍵が弱かったわけではない。鍵を預けた先が破られた。

GMOの発表をもとに、流れを並べるとこうなる。

🗓️ 不正アクセスの流れ
10月19日GMOが調査を始める
10月20日サーバーに仕込まれた不正なプログラムを見つける
10月21日全プランのサーバーを止めて、不正アクセスを公表
10月22日警察に相談。金融庁は、FX各社に不審な取引の監視を強めるよう求める
10月24日攻撃側の要求に応じないと発表。見舞金と損失の補償、国への「能動的サイバー防御」の要請も
10月27日報道による、攻撃側の期限(正午)
10月30日この日までに、見舞金と代わりのサービスを案内する予定(メール)
11月6日この日までに、損失の補償の申請方法を案内する予定(メールと公式サイト)

影響の可能性があるサーバーは、26,739件。一部の利用者からは、取引口座で身に覚えのない取引があった、という報告も届いている。

攻撃側は、お金を払わなければ、次のことをすると脅している。

📄 GMOの発表(10月24日)にある、攻撃側の脅し
・国内外70社を超える証券会社やFX会社の口座への、不正な操作を続ける
・サービスや、サーバーにつないでいた利用者のパソコンの情報を公開し、ランサムウェア攻撃をする
・GMOのシステムや運用の情報を公開する

ランサムウェアは、データを人質にとって身代金を求める攻撃のことだ。報道によると、要求は100万ドル(1ドル157円で約1億5,700万円)とされる。


2. なぜ、身代金を払わないの?

GMOは、要求に応じない理由をこう書いている。要求に応じても、盗まれた情報が消されることや、不正に使われないことは、保証されない。

相手は、そもそも約束を守らない人たちだ。それに、払えば「この会社は払う」と知られて、また狙われやすくなる、とも言われる。

そのかわりに、GMOは利用者に、次のことを約束した。

🤝 GMOが利用者に約束したこと
見舞金被害の有無にかかわらず、いまの利用者全員に一律5,000円
損失の補償不正な取引で実際に確定した損失や手数料。相場の動きによる損失や、もうけそこねた分は対象外。取引先の証券会社やFX会社から返金があれば、その分を差し引く
代わりの場所別のサーバーに移れるサービスを、6か月無料で
GMOは、補償の手続きで、取引の履歴を見るためだけのパスワードを除き、パスワードや暗証番号を聞くことはないとしている。それ以外を聞いてくる連絡は、にせものの可能性がある

3. 株価と、これからどうなる?

GMOのグループには、上場している会社がいくつもある。24日の発表のあと、最初の取引日になった26日に、株価は大きく下がった。

📉 GMOグループの株価(終値)
会社
発表前
発表後
変化
GMOインターネットグループ
3,769円
3,179円
15.7%下落
GMOインターネット
491円
418円
14.9%下落
GMOフィナンシャルHD
1,128円
1,045円
7.4%下落
Yahoo!ファイナンスの終値から。「発表前」は、24日(土)の発表の前の最後の取引日である23日(金)。「発表後」は、発表のあと最初の取引日である26日(月)。GMOインターネットグループはグループ全体の親会社、GMOインターネットは「お名前.com」を運営する会社、GMOフィナンシャルHDはGMOクリック証券などを持つ会社

サイバー攻撃を受けた会社の株価は、そのあと、どうなったのか。過去の例を見てみた。

⏳ 攻撃を受けた会社の、その後
KADOKAWA(2024年6月)
ランサムウェアで「ニコニコ動画」などが長く止まった。株価は攻撃前の3,365円から、3週間で2,579.5円へ(23%下落)。同じころ日経平均は上がっていた。攻撃前の値に戻ったのは10月15日で、約4か月かかった
エクイファックス(アメリカ、2017年9月)
信用情報の会社で、約1億4,700万人の個人情報が流出。発表の翌日に13.7%、1週間で35%下落。発表前の値に戻ったのは2019年7月で、約1年10か月かかった。和解金は最大7億ドル
DMM Bitcoin(2024年5月)
暗号資産の交換会社で、約482億円分のビットコインが流出。グループから550億円を集めて全額を補償したが、半年後に廃業を決め、口座はSBI VCトレードに移った(上場はしていない)
株価はYahoo!ファイナンスの終値(エクイファックスはドル建て)。KADOKAWAは2024年8月5日の株式市場全体の急落でも一時大きく下げている

戻るまでの時間は、会社によって大きく違う。数か月で戻ることもあれば、2年近くかかることもある。お金そのものを盗まれた会社は、全額を補償しても、事業を続けられなくなることがある。

これから、どう着地するのか。決まっている予定と、決まっていないことに分けてみる。

決まっているのは、GMOの手続きだ。10月30日までに見舞金と代わりのサービスの案内、11月6日までに補償の申請方法の案内を出す。

決まっていないのは、27日の正午を過ぎたあとだ。攻撃側が、情報の公開や、口座への不正な操作を本当に続けるのかは、わからない。補償の額が、どれくらいになるのかも、まだわからない。

GMOは、国に「能動的サイバー防御」の発動を求めた。これは、10月1日に始まったばかりのしくみで、国が攻撃元のサーバーに入りこみ、攻撃できないようにする(無力化する)こともできる。GMOは、今回を「発動第1号」にしてほしいと書いている。

ただ、報道によると、企業の側から発動を申し込むしくみはない。使うかどうかは、事件の重さや急ぎぐあいを見て、国が決める。実際に動くには、原則として、新しくできた「サイバー通信情報監理委員会」の事前の承認もいる。政府の高官は「防御のための支援はする」と話している。一方で、別の高官は「まだ発動する事態ではない」と判断している、と報じられている。攻撃元の無力化まで進むかは、まだ見えない。


4. わたしの口座は、どう守る?

ごまもち
🐾 ごまもち
あずきの口座は、だいじょうぶ?🐾
あずき
あずき
できることはしているけど、絶対はないかな。

証券口座が乗っ取られる事件は、今回が初めてではない。2025年の春には、にせのサイトでIDとパスワードを盗まれ、口座で勝手に株を売り買いされる被害が相次いだ。

金融庁がまとめている、証券会社などへの不正な取引の件数を見ると、こうなる。

🔓 証券会社などへの不正取引の件数(月別)
1,000 2,000 3,000 2025年1月 2026年1月 9月 2025年4月 3,033件 2026年9月 2件
金融庁「インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引の発生状況」(2026年10月9日更新)から。不正アクセスのうち、不正な取引まで行われた件数。2025年1月から2026年9月までの累計は10,642件。オレンジはいちばん多かった月、濃い緑は2026年

いちばん多かった2025年4月は、3,033件。それが、2026年9月には2件まで減った。

減ったのは、証券会社が本人確認を強めたことが大きい。各社は2025年春の被害のあと、急いで対策を進めた。10月には日本証券業協会がルールを改め、ログインや出金のときに、パスワードに加えて別の方法でも本人を確かめるしくみ(多要素認証)を、にせのサイトにだまされにくい形で必須にした。その代表がパスキーだ。スマホなどの指紋や顔で本人を確かめるしくみで、にせのサイトでは使えない。SBI証券も、2025年10月25日からパスキーでログインできるようになった。

今回の事件は、その入口を力ずくで破ったものではない。利用者が預けていた鍵が盗まれ、その鍵で入られた。自動売買は、だれもいないサーバーが、利用者の代わりにログインする。本人が指紋や顔で確かめるパスキーは、そこでは使えない。だから、IDとパスワードをサーバーに置いておくしかなかった。

わたしは、FXの自動売買も、こういうサーバーも、使ったことがない。だから、今回の経路とは関係しない。SBI証券では、パスキーでログインしていて、取引のときのパスワードは、パスワード管理アプリ(1Password)に入れている。

2025年春の騒ぎのときに、セキュリティを、証券会社がすすめる設定にアップデートした。そのとき感じたのは、いつ自分に起きてもおかしくない、ということだ。今回も、同じことを思った。

では、こういうことは、これからも続くのだろうか。

入口を固めれば、攻撃する側は、別の弱いところを探す。今回は、それが利用者の預けた鍵だった。

アメリカのセキュリティの専門家、ブルース・シュナイアーは、2000年に出した本の序文で、こう書いている。

セキュリティは鎖だ。
いちばん弱い輪の強さまでしか、
安全ではない。
Security is a chain; it's only as secure as the weakest link.
ブルース・シュナイアー『Secrets and Lies』序文(2000年)

鎖は、どれだけ太い輪をつないでも、強く引っぱれば、いちばん細い輪のところで切れる。ほかの輪がどんなに丈夫でも、鎖全体の強さは、いちばん弱い輪で決まってしまう。

セキュリティも同じだ。攻める側は、守りの固いところには来ない。弱いところを探して、そこを攻める。この弱いところを、「セキュリティホール(守りの穴)」と呼ぶ。

サッカーでも、相手のディフェンスに弱いところがあれば、そこを集中して攻める。ボクシングでも、相手のガードが空いたところを狙う。弱点を攻めるのは、どんな勝負でも常套手段だ。今回、利用者がIDとパスワードを預けていたサーバーは、まさにその弱い輪だった。

シュナイアーは、暗号の専門家として仕事をしてきた人だ。序文によると、実際のしくみを調べてみると、弱いところは暗号の数学ではなかった。機械やソフト、ネットワーク、そして人にあった。どんなに美しい暗号も、だれかの弱いパスワードひとつで意味がなくなる。そう気づいて、この言葉をくり返すようになったという。

では、解決策はあるのか。シュナイアーの言葉どおりなら、これで終わり、という解決策はない。あるのは、いちばん弱い輪を見つけて、ひとつずつなくしていくことだけだ。

いつ自分に起きてもおかしくない。だから、できることは、先にやっておく。


5. まとめ

🐾 この記事のまとめ
  • GMOのFX自動売買用サーバー26,739件に影響の可能性。保存されていた口座のログイン情報が盗まれたおそれ
  • 攻撃側は金銭を要求し、70社超の口座への不正操作を続けると脅す。報道では期限は10月27日正午
  • GMOは、払っても情報が消える保証はないとして拒否。見舞金5,000円と損失の補償を約束
  • GMOは国に「能動的サイバー防御」の発動を求めたが、使うかどうかは国が決める
  • 証券口座への不正取引は2025年4月の3,033件から2026年9月は2件に。証券会社の入口が固くなり、今回は利用者が預けた鍵が狙われた
  • わたしはパスキーとパスワード管理アプリ。自動売買のサーバーは使っていない。いちばん弱い輪をなくしていくしかない
🐾 関連記事
優待で株主を集めたら、集まりすぎた。ガリバーの優待が9か月で見直しになった理由
ニュース
優待で株主を集めたら、集まりすぎた。ガリバーの優待が9か月で見直しになった理由
仕事と家庭以外に、夢中になれることはある? 「第三の領域」がある人は幸福度が高い
ニュース
仕事と家庭以外に、夢中になれることはある? 「第三の領域」がある人は幸福度が高い
余命宣告の帰り道に2,200万円は、神様からの贈りものかもしれない
ニュース
余命宣告の帰り道に2,200万円は、神様からの贈りものかもしれない
実質賃金は上がっているのに、わたしの単価は2023年からそのまま
フリーランス
実質賃金は上がっているのに、わたしの単価は2023年からそのまま
📚 参考にした情報源 ・事件の経緯と補償:GMOインターネット「【重要】お名前.com デスクトップクラウドサービスに対するサイバー攻撃について(第4報)」(2026年10月24日)、第1報(お名前.com、10月21日)
・要求額と期限:テレビ朝日系(ANN)「GMOに100万ドル要求か 攻撃側 27日正午までに」(10月26日の報道)
・能動的サイバー防御:Impress Watch「不正アクセスを受けたGMOに金銭要求 政府に『能動的サイバー防御』要請」、日本経済新聞「能動的サイバー防御をGMO要請 適用は政府判断、重大・緊急性考慮」
・金融庁の要請:日本経済新聞「金融庁、FX各社に不審な取引の監視強化要請」
・不正取引の件数:金融庁「インターネット取引サービスへの不正アクセス・不正取引の発生状況」(2026年10月9日更新)
・証券業協会のルール:日本総研のレポート(2025年10月)
・証券会社の対策とSBI証券のパスキー:Impress Watch(2025年10月27日)
・株価:Yahoo!ファイナンスの終値
・ほかの会社の例:KADOKAWAの業績予想の修正(gamebiz)、米連邦取引委員会(FTC)の発表(2019年7月)、DMM Bitcoinの廃業(gamebiz)
・格言:Bruce Schneier, Secrets and Lies, Preface(訳はわたし)
⚠ 免責事項 この記事は公表された資料と報道をもとにしたあずき個人の考えです。特定の銘柄の売買をすすめるものではありません。口座の設定は、ご自身が使っている証券会社の案内を確かめてください。
TAGS#セキュリティ#証券口座#ニュース
この記事をシェア

新しい記事は X(@harukamuy) でお知らせしています。