個人の金融資産が1年で251兆円増えた。そのうち、新しく入ったお金は25兆円だった
9月17日、日銀が「資金循環統計」を発表した。日本中の個人が持っている金融資産(預金、株、投資信託、保険など)を、3か月ごとに合計している統計だ。6月末の残高は2,519兆円で過去最高。初めて2,500兆円を超え、1年前より251兆円、11%増えた。ニュースを見て、こう思った人もいるはずだ。
🤔「1年で251兆円って、どこから出てきたお金?」
😤「うちは全然増えてないけど」
🏠「現金・預金が44.9%まで下がったって、みんな預金をおろしたの?」
わたしが気になったのは、2つ目だ。増えた251兆円は、給料などから新しく入ったお金なのか。それとも、前から持っていたものが値上がりしただけなのか。同じ「増えた」でも、意味がまるで違う。
結論から言うと、251兆円のうち、新しく入ったお金は25兆円。残りの226兆円は値上がりだった。割合にすると1対9。トヨタやNTTのような個別株にいたっては、新しく入るどころか、個人が売った額のほうが買った額より5兆円多かった。一方で、オルカンのような投資信託には、新しく入ったお金の半分以上が向かっている。つまり、答えは2つある。「みんなの資産が増えたのは、投資にお金を入れたから?」と聞かれたら、答えは「いいえ、ほとんどは株が上がったから」。「みんな、預金より投資にお金を回すようになった?」と聞かれたら、答えは「はい、それは本当」。順番に見ていく。
1. ニュースになった数字
株が47%増、投資信託が37%増。現金・預金は0.5%しか増えず、全体に占める割合は44.9%まで下がった。この表だけを見ると、「みんなが預金から株や投資信託にお金を移した」と読める。
でも、この表は残高(その時点で持っている金額)だ。残高が増える理由は2つある。新しくお金を入れたか、持っているものが値上がりしたか。100万円の株を持っている人が、何もしないまま株が150万円になっても、残高は50万円増える。
2. 251兆円を、「新しく入ったお金」と「値上がり」に分ける
日銀の統計には、残高のほかに2つの数字が載っている。ひとつは取引額。その期間に、買った額から売った額を引いたものだ。この記事では「新しく入ったお金」と呼ぶ。預金をおろして投資信託を買った場合は、預金がマイナス、投資信託がプラスになり、合計は変わらない。合計が増えるのは、給料などから新しくお金が回ってきたときだけだ。もうひとつは調整額。残高の増え方と取引額の差で、日銀は「価格変化などによる変化分」と説明している。ほとんどが値上がり、値下がりのぶんなので、この記事では「値上がり」と呼ぶ。
1年ぶん(2025年7月から2026年6月)を、クロちゃん(わたしが使っているAI、Claude)に足してもらった。
251兆円のうち、新しく入ったお金は25兆円で1割。値上がりが226兆円で9割だった。オルカンやS&P500の積立は、この表では「投資信託」の行に入る。
いちばん驚いたのは株の行だ。残高は155兆円も増えたのに、新しく入ったお金はマイナス5兆円。個人は1年を通して、株を買った額より売った額のほうが多かった。それでも残高が47%増えたのは、持ち続けていた株が値上がりしたからだ。日経平均は、1年前の6月末が40,487円。今年の6月末は70,062円。1年で7割上がっている。
1つ目の声、「みんな、そんなに投資を始めたんだ」への答えは、残高で見るかぎり、少し違う。残高が増えたのは、始めた人が増えたからというより、前から持っていた人の資産が値上がりしたからだ。
3. 「株式など486兆円」の半分近くは、上場していない会社の株
もうひとつ、内訳を見て分かったことがある。「株式など」486兆円の中身だ。
486兆円は、個人が、自分の名前で直接持っている株の合計だ。オルカンのような投資信託を通して持っている株は、ここではなく「投資信託」の193兆円のほうに入っている。会社や銀行、外国の投資家が持っている株も入っていない。「など」が付くのは、株のほかに、会社への出資金が少し含まれるからだ。
222兆円は、売り買いの値段がついていない株だ。日銀が、似た業種の上場会社の株価などから推計している。上場株が上がると、この推計値も上がる。この1年の値上がりは、上場株式が+74兆円、非上場株式が+85兆円。値上がり226兆円のうち4割近く(226兆円のうちの85兆円)は、市場で値段がついていない株の、推計値が上がったぶんだった。
3つ目の声、「うちは全然増えてないけど」は、統計のほうとも合っている。増えた251兆円の6割は「株式など」のぶんで、そのうち半分は、上場していない会社の株の推計値だ。
4. 現金・預金の割合が下がったのは、預金が減ったからではない
4つ目の声、「みんな預金をおろしたの?」。おろしていない。現金・預金は1年で5兆円増えている。
割合が下がった理由は、割り算の分母にある。現金・預金の割合は、現金・預金を資産の合計で割った数字だ。株が値上がりして合計がふくらむと、預金が1円も減らなくても、割合は下がる。
いま(2026年6月末) 1,131.6兆円 ÷ 2,519.1兆円 = 44.9%
もし値上がりがゼロだったら 1,131.6兆円 ÷(2,268.5兆円+新しく入ったお金25.0兆円)= 49.3%
1年で4.7ポイント下がった(%どうしの差を「ポイント」と呼ぶ)。そのうち、新しいお金が預金以外に多く向かったことで下がったのは0.3ポイント。残りの4.4ポイントは、株と投資信託が値上がりして、分母が大きくなったぶんだった。
逆に、株が下がれば、誰も何もしなくても、この割合は上がる。現金・預金の割合は、みんなが何をしたかより、株価で動く数字だ。
5. それでも、新しいお金の行き先は変わっている
ここまでだと、「貯蓄から投資へ、は見かけだけ」に聞こえるかもしれない。そうではない。新しく入ったお金の行き先を、1月から12月までの1年ごとに見ると、はっきり変わっている。
2020年は、新しいお金のほとんどが預金に入っていた。コロナの給付金があった年だ。それが2024年、新NISA(税金がかからずに投資できる枠が、大きく広がった制度)が始まった年に、投資信託が預金を上回った。2007年以来、17年ぶりのことだ。2025年は投資信託が預金の2倍。今年は半年で8.7兆円と、去年1年ぶんに迫っている。
もうひとつ増えているのが国債だ。半年で3.6兆円は、去年1年ぶんをもう超えた。個人向け国債の利率が過去最高になった時期と重なっている。
つまり、こういうことだ。
お金の行き先で測ると 2章で見た1年(2025年7月〜2026年6月)に新しく入った25兆円のうち、14兆円が投資信託へ。こちらは、人が動いた数字
6. わたしの資産も、同じ形をしていた
6月に書いた資産推移の記事で、同じ分け方をしている。証券口座の残高は、2021年8月から2025年末までで3,585万円増えた。中身は、自分で入れたお金が約1,555万円、値上がりが約2,030万円。入れたお金が4割、値上がりが6割だった。
この期間のわたしは、毎月の積立に加えて、退職金なども入れていた。それでも、値上がりのほうが多い。日本全体とは期間も中身も違うので、割合をそのまま比べるつもりはない。同じなのは、形のほうだ。増えたぶんの多くは、自分が働いて入れたお金ではなく、持ち続けているあいだに市場が運んできた。日本全体でも、わたしの口座でも、そうだった。
226兆円は、この1年に何かをした人ではなく、前から持っていた人のところに届いた。始めたばかりの人にまだ届いていないのは当たり前で、遅れているわけではない
9割が値上がりなら、相場が下がった年には、同じ統計で「個人の金融資産が減った」と伝えられる
自分で決められるのは、入れる額と、続けるかどうかだけ。値動きは決められない
エドウィン・ルフェーブル『欲望と幻想の市場』(1923年)
100年前のアメリカの相場師(株の売り買いで生きていた人)、ジェシー・リバモアをモデルにした小説の一節だ。主人公は、何百万ドルも儲けては失ったあとで、こう振り返る。相場の先を正しく読めた人は大勢いた。でも、読んだうえで座っていられた人は、ほとんどいなかった、と。
わたしは相場師ではないし、先を読むこともできない。できるのは、入れ続けることと、座っていることだけだ。
値動きは決められない。決められるのは、入れる額と、続けること。オルカンの積立も、BND(米国債券ETF)も、日本の高配当株119銘柄も、8年以上SBI証券の口座です。
SBI証券の公式サイトを見る →7. まとめ
- 日銀の発表で、個人の金融資産は6月末に2,519兆円。1年で251兆円増え、過去最高
- 増えた251兆円のうち、新しく入ったお金は25兆円(1割)、値上がりが226兆円(9割)
- 株は残高が155兆円増えたのに、個人は1年で、売った額のほうが5兆円多かった。「株式など」486兆円のうち222兆円は、上場していない会社の株の推計値
- 現金・預金の割合が49.7%→44.9%に下がったのは、預金が減ったからではない。値上がりがなければ49.3%だった
- 一方、新しいお金の行き先は変わった。2024年に投資信託が預金を17年ぶりに上回り、国債も増えている
- 値上がりは、持ち続けた人にだけ届く。わたしが決められるのは、入れる額と、続けることだけ
・報道:時事通信「個人金融資産、2519兆円 6月末、株価高騰で過去最高 日銀」(Yahoo!ニュース、2026年9月17日)
・日経平均:Yahoo Financeの終値(2025年6月30日 40,487円、2026年6月30日 70,062円)
・新しく入ったお金(取引額)と値上がり(調整額)、株式などの内訳、年ごとの行き先(1998年以降で、投資信託が預金を上回った年は2000年、2005〜2007年、2024年、2025年):日本銀行 時系列統計データ検索サイトの資金循環(家計)。系列は、合計 FOF_FFAS(残高)/FFAF(取引額)/FFAR(調整額)430A900、現金・預金 A100、債務証券 A300、国債・財投債 A311、投資信託 A318、株式等 A330、上場株式 A331、非上場株式 A332、保険・年金 A400。速報値で、あとから改定されることがある。足し算と割り算はクロちゃん(Claude)に計算してもらった
・わたしの数字:6月24日の記事(SBI証券の口座、2021年8月〜2025年末)
・言葉:Edwin Lefèvre, "Reminiscences of a Stock Operator"(1923年)第5章。邦題は『欲望と幻想の市場』。訳はわたし




