株式市場が『眠らなくなる』らしい。24時間取引のメリット・デメリットを調べてみた
ロンドン証券取引所グループが、2027年の上期に「LSE24」という、ほぼ24時間動く取引市場を立ち上げる と発表した(2026年7月21日)。米国でも今年12月から23時間取引が始まる予定で、日本経済新聞の見出しには「取り残される東証」の文字。世界の株式市場が、眠らなくなろうとしている。
第一印象は「便利そう」だった。夜に決算やニュースが出ても、すぐ売買できる。日中働いている人は、夜にゆっくり取引できる。いいことずくめに見える。
でも、ちょっと立ち止まった。24時間買えるようになることは、長期でコツコツ積み立てているわたしたちにとって、本当にいいことなんだろうか? メリットとデメリット、両方調べてみた。
1. 何が起きているのか
並べてみると、なかなかのコントラストだ。東証にとって70年ぶりの大改革が 「30分の延長」。その2年後に、ロンドンと米国は 「ほぼ24時間」 へ踏み出そうとしている。
2. なぜ、取引所は眠らなくなるのか
取引所が善意で夜更かしするわけではない。背景にあるのは、世界の投資マネーの奪い合い だ。
理由①:仮想通貨に慣れた世代がいる
ビットコインなどの仮想通貨は、最初から 24時間365日 取引できる。スマホでいつでも売買できるのが当たり前の世代にとって、「平日の昼しか開いていない株式市場」は不便な旧世界に見える。取引所は、この世代のお金を仮想通貨に取られたくない。
理由②:時差の壁を消したい
米国株を買いたいアジアやヨーロッパの投資家にとって、米国市場が開くのは自分たちの夜中だ。取引時間が伸びれば、世界中の投資家が「自分の昼間」に参加できる。つまり取引時間の延長は、海外マネーを呼び込む競争そのものだ。
理由③:個人投資家の生活時間に合わせたい
日中働いている人が売買できるのは、実質的に夜だけ。スマホ証券の普及で個人の存在感が増した今、「お客さんが起きている時間に店を開ける」 のは商売の基本でもある。
要するにこれは、取引所同士の シェア争奪戦 だ。「取り残される東証」という見出しは、この競争に日本が参加できていない、という意味になる。
3. メリット:たしかに便利になる
利用者側のメリットは、素直に3つある。
- 夜のニュースにすぐ反応できる。米国の重要な経済指標や企業決算は、日本時間の夜〜早朝に出ることが多い。「朝起きたら暴落していて、何もできなかった」が減る
- 生活時間で取引できる。仕事終わりの夜に、落ち着いて売買できる
- 時差の壁が低くなる。海外の株を、自分の昼間に売買しやすくなる
ここだけ見ると、いいことずくめだ。でも、調べていくと反対側の顔が見えてくる。
4. デメリット:夜の市場には、落とし穴がある
落とし穴①:夜は「参加者が少ない」
でも夜中の市場は、開いている店も、歩いているお客さんも少ない商店街。売りたいとき、買い手が1人しかいなければ、その人の言い値で売るしかない。これが「流動性が薄い」ということで、夜間の取引は昼より値段が荒れやすく、不利な値段になりやすい。
これは例え話だけではなく、実際の数字にも出ている。米国ですでに夜間取引を担っている市場(ブルーオーシャンATS)の出来高は、1日あたり3,000万〜5,000万株ほど(米業界メディアFlexTradeなどの報道より)。一方、日中の米国市場全体では 1日100億株規模 が取引されている。つまり現状、夜の取引量は昼の1%にも満たない(急速に伸びてはいるけれど)。商店街の例えで言えば、昼は満員の商店街、夜はまだ、人がぽつぽつ歩き始めた程度なのだ。
24時間開いていることと、24時間ちゃんと機能していることは、別の話。特に始まったばかりの夜間市場は参加者が少なく、急なニュースが出ると値動きが極端になりやすい と指摘されている。
落とし穴②:「市場が閉まっている時間」が消える
これは調べていて、いちばん考えさせられたところ。いままで市場が閉まっている夜や週末は、強制的に「何もできない時間」 だった。暴落のニュースを見て頭に血が上っても、注文を出せるのは翌朝。その間に頭が冷えて、「やっぱり売らないでおこう」と思い直せた人は、きっとたくさんいる。
24時間市場では、この 「冷却時間」が消える。SNSで不安が拡散する深夜に、震える手ですぐ売れてしまう。便利さと引き換えに、狼狽売りへの防波堤がひとつなくなる のだ。
落とし穴③:常に市場が気になってしまう
「いつでも取引できる」は「いつでも取引すべきかもと感じる」と紙一重だ。寝る前も、起きた瞬間も、値段が動いている。市場に張りつく生活は、資産形成のためというより、心の消耗戦 になりかねない。
5. で、わたしたちに関係あるの?
いちばん大事なところ。この24時間化、立場によって関係の度合いがぜんぜん違う。表にすると、こうなる。
| 投資スタイル | 影響と注意点 |
|---|---|
| 投信の積立派 (オルカン・S&P500など) |
【ほぼ無関係】投資信託は1日1回の基準価額で約定する仕組みのまま。安心して寝ていていい |
| ETF・個別株の長期保有派 (わたしのBNDもここ) |
【少し関係あり】取引の選択肢は広がる。ただし夜の暴落ニュースで「うっかり狼狽売り」する誘惑も増える。長期保有派なら、あえて使わない選択もある |
| 短期売買・決算またぎ派 | 【大きく関係】夜の決算やニュースに即応できるようになる。ただし参加者の少ない夜の荒い値動きを、最前線で受けることにもなる |
ちなみに「日本株は関係ないの?」と思った人へ。実は日本でも、一部のネット証券では PTS(※)という仕組みで、すでに夜間の売買ができる。東証そのものがどう動くかは、東証改革ウォッチの続きとして見ていきたい。
※PTS(私設取引システム)=東証などの取引所を通さず、証券会社側のシステムで株を売買できる私設の取引の場。夜間も動いている。
つまり、積立民の日常は何も変わらない。変わるのは「取引したい人の選択肢」で、それに伴う夜の落とし穴も、取引する人のところにやってくる。
6. わたしの結論:取引所が眠らなくなっても、わたしは寝る
調べ終わって、わたしの結論はシンプルだった。
市場の営業時間が伸びても、わたしのやることは1ミリも変わらない。毎月の積立は自動で走るし、高配当株は売らない方針で持っている。夜中に取引できるようになっても、夜中に取引したいものが、そもそもない。
むしろ今回の学びは逆側にあった。「市場が閉まっている時間」は、不便さではなく、冷却装置だった ということ。中東ショックのような急落のとき、わたしが狼狽売りせずに済んだ理由のいくつかは、「すぐに売れなかったから」でもあったと思う。
機会が増えることと、その機会を使うべきことは、別の話。24時間眠らない市場が世界の標準になっても、投資家まで眠らない必要はない。取引所が夜通し働くのは止めない。でも、わたしは寝る。
7. まとめ
- ロンドン証券取引所が2027年上期に ほぼ24時間の市場「LSE24」 を開設予定。米国も今年12月から 23時間取引 が始まる見込み。東証は「70年ぶりの改革」で30分延長したところで、対照的
- 背景は マネーの争奪戦。仮想通貨に慣れた世代、時差の壁、個人の生活時間。取引所同士のシェア競争が「眠らない市場」を生んでいる
- メリットは 夜のニュースへの即応・生活時間での取引・時差の解消
- 落とし穴は ①夜は参加者が少なく値段が荒れやすい(夜中の商店街)、②狼狽売りを防いでいた「冷却時間」が消える、③常に市場が気になる消耗戦
- 投信の積立民にはほぼ無関係(基準価額は1日1回のまま)。関係するのは米国ETF・個別株を売買する人から
- わたしの結論:取引所が眠らなくなっても、わたしは寝る。閉場時間は冷却装置だった。機会が増えることと、使うべきことは別
・米国の23時間取引:NYSE公式(Extended Hours Trading)
・東証の取引時間延伸(2024年11月・15:30まで):日本取引所グループの発表
・夜間取引の出来高:FlexTrade、Global Trading
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