インボイス制度・3年目のリアル——映像フリーランスのわたしが『登録してよかった』と断言できない理由
インボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まったのが2023年10月。わたしは映像プロデューサーとして、その流れに合わせて登録番号を取得した課税事業者として3年目に入った。
3年経って、正直なところを書く。登録してよかった、とは断言できない。けれど、登録しなかった世界線も体験していないので比較もできない——という、ちょっとモヤッとした感覚が本音だ。
基本スタンスとして 「お上にさからっても良いことはない、その代わり正規ルートで損しない方法は使い切る」 という考え方で動いているので、今後も登録は続ける予定。今日はその「比較できないモヤモヤ」も含めて、これから登録するか迷っている人・すでに登録して負担を感じている人に向けて、3年目のリアルを共有したいと思う。
結論:「登録した、でも『よかった』とは言い切れない」
最初に結論から書いておく。
これだけ見ると「じゃあ登録しなくてよかったんじゃない?」と思うかもしれない。実はわたしも同じことを考えている。詳しくは後で書く。
なぜ登録したか——「空気感に流された」が正直な答え
わたしが登録したいちばんの理由は、空気感だ。
- まわりのフリーランス仲間が「登録した」「登録するつもり」と言っていた
- 取引先のいくつかから「インボイス登録したら番号教えてください」と先回りで聞かれた
- 業界全体が「登録するもの」という前提で動いているように見えた
「登録しないと取引が減る」とよく言われていたので、なんとなく登録しないといけないものだと思っていた。実際に取引先から「登録してくれないと発注できない」と直接言われたことは、3年経っても 一度もない。
ただし、受注前にインボイス番号を確認されるケースは実際にある。「未登録だから敬遠される」事例を直接見たことはないけれど、確認の頻度から察するに、登録していないと候補から外される可能性はゼロではないと思う。「証拠はないけど、空気としてはある」 という感覚が一番近い。
2割特例で救われている——終わるとどうなる?
わたしの売上はざっくり年700万〜900万円の範囲。映像プロデューサーとして、小規模な制作会社や代理店との取引が中心。本来であれば消費税の負担はそれなりに大きいけれど、現在は 「2割特例」 という経過措置で大きく救われている。
2割特例とは
インボイス制度をきっかけに課税事業者になった人向けの経過措置。売上にかかる消費税の20%だけを納付すればいいという、めちゃくちゃありがたい制度だ。
ざっくり試算するとこんな感じ。
つまり2割特例なら 16万円 で済むところが、終わると 40万〜60万円 に跳ね上がる可能性がある。年20万〜44万円の負担増。これはなかなか大きい。
この2割特例は 2026年9月末で終了予定
2026年10月以降は、簡易課税か本則課税のどちらかを選ぶことになる。映像プロデューサー(サービス業)の場合、簡易課税は第5種でみなし仕入率50%。経費が少ない働き方の人は、簡易課税のほうが有利になりやすい。
わたしは経費が比較的少ないので、簡易課税に切り替える方向で検討中。
インボイス登録のメリット・デメリットを整理
ここで、登録するかどうかを迷っている人のために、一般的なメリット・デメリットを整理しておく。
メリット
デメリット
ざっくり言うと、「取引のチャンスは多少増えるかもしれない、でもお金と手間は確実に増える」というトレードオフだ。
逆に「登録しない(免税事業者を続ける)」メリット・デメリット
判断のためには、登録しない選択肢も並べて考える必要がある。こちらも整理しておく(前提:年間売上が1,000万円以下の場合)。
メリット
デメリット
ざっくり言うと、「お金と手間は確実に少なく済む、でも取引先選びの自由度が下がる可能性がある」というトレードオフ。登録するかしないかは、結局このふたつの天秤 ということになる。
モヤモヤする話——免税事業者で「税込請求」の人もいる
ここからは少しモヤッとする話。
知り合いのカメラマンに、インボイス未登録の免税事業者なのに、請求書は『税込』で出している人がいる。これはつまり、本人が消費税を納めなくていいのに、消費税分を上乗せして受け取って、そのまま懐に入れている状態(いわゆる「益税」と呼ばれる)。
正直、これを聞いたとき結構モヤモヤした。こちらは登録して消費税を払っているのに、その人は同じ売上から余計に手取りを得ていることになるから。
ただ、ここで考えたいのは、
- もし「免税事業者で税込請求」がどの取引先でもOKなら、ほとんどのフリーランスがそうするはず
- でも実際にはそうなっていない=取引先側で何らかの圧力やフィルターはあると推測
- ただし「実際に断られた事例」を聞いたことがないので、圧力の強さがわからない
このグレーな状態が、インボイス制度3年目の最大のモヤモヤポイントだと思っている。「みんなが登録しているから自分も」ではなく、自分の取引先と取引内容に照らして、どっちが得かを冷静に判断できる人が、結果的に正解に近づくはずだ。
わたしの基本スタンス——お上にさからっても良いことはない
判断軸の前に、わたしの 基本スタンス を書いておきたい。インボイスに限らず、税金や制度の話で迷ったときの、わたしの判断のものさしだ。
インボイス制度に関しても、この4つで判断している。「登録するもの」という方針が国から出ている以上、基本は便乗したほうがあとあと面倒が少ない。一方で、2割特例や簡易課税は国が用意した正規のルートで負担を軽くできる仕組みなので、こういうのはありがたく使わせてもらう。
逆に、免税事業者で税込請求して益税を取るような行為は、わたしのなかでは「グレーで気持ち悪い」ゾーン。違法ではないけれど、長く続けていて気持ちのいいやり方ではない。だからわたしは登録を取り下げるという選択は取らない。
わたしの結論——取引先次第、ただし慎重に判断を
3年目の今のわたしの結論は、
わたし自身は基本スタンスのとおり、登録は継続する。可能なら消費税を払いたくない気持ちもあるけれど、それ以上に「国の方針に乗っかったうえで、正規のルートで負担を最小化する」ほうがあとあと楽だと思っている。だから2割特例が終わったら簡易課税に切り替えて、ちゃんと節税ルールを使い切る方向で進める。
発注する側として——わたしの場合
ちなみにわたしはプロデューサーとして、フリーランスの方に仕事を依頼することもある。発注側の立場として正直に書くと、相手が免税事業者か課税事業者かは、まったく気にしない。
ただし——免税事業者の方に依頼する場合、わたしは 消費税分は支払わない。本人が国に納めない以上、こちらが上乗せして払う理由はないと考えているからだ。理屈は色々あるけれど、要するに支出を抑えたいというのが正直な動機だ。
今は2割特例、これから簡易課税に切り替える予定だが、どちらの方式でも仕入先の消費税の有無は納税額に影響しない。だから「免税事業者には消費税を上乗せしない」というわたしのルールは、どちらでも経済合理性として一貫して成り立つ。発注する側に回ったときの判断軸も、自分のなかでは揃えているつもりだ。
これから登録するか迷っている人へのアドバイスとしては——
- 取引先に直接「免税事業者ですが、問題ないでしょうか?」と聞いてみる(意外と「大丈夫ですよ」と言われることもあるかも?)
- 2割特例終了後(2026年10月以降)の納税額を試算してから判断する
- 「みんなやってるから」では決めない
この3つを意識するだけで、判断の質はぐっと上がると思う。
まず自分の状況を数字で出してみる
最後に、実際の数字を出して比較するためのシンプルな手順を置いておく。
数字を出してみると、自分にとっての落としどころが見えてくる。「みんなが登録するから」ではなく、自分の数字と取引先の状況で決める のが、結果的に一番納得できる選択だ。
確定申告と日々の経理はfreeeを使っているので、消費税まわりの計算もそれほど苦にはなっていない。事務負担を軽くするツールがあれば、登録のハードルは少し下がると思う。
- インボイス登録3年目。空気感に流されて登録したが、取引先から「未登録だと困る」と言われたことは一度もない
- 受注前に番号確認はされる。未登録で敬遠される空気はあるが、実際に断られた事例は周りでも見ていない
- 2割特例で救われている。売上800万円なら納付16万円、終了後は40〜60万円に跳ね上がる可能性
- 2026年9月末で2割特例終了。10月以降は簡易課税(第5種50%)か本則課税を選ぶ必要
- 登録メリット:取引チャンス増・安心感・消費税上乗せ請求/デメリット:納付義務・事務負担・適格請求書対応
- 免税メリット:納税不要・事務軽い・益税の可能性/デメリット:大手から外される可能性・税抜き請求要請・空気感での疎外感
- 免税事業者で税込請求している人もいる(益税)。グレーな状態がモヤモヤの原因
- 基本スタンス:お上にさからっても良いことはない、国の方針には便乗、抜け道は使わない、正規ルートで損しない方法は実行する
- 判断軸:大手取引多い→登録、個人客中心→免税OKの可能性、1,000万超え→登録一択、1,000万以下→取引先次第
- 取引先に直接聞く・終了後の納税額を試算する・「みんなやってるから」で決めない、の3つが大事
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