250億円が消えた投資詐欺。だまされないために、わたしが決めている3つのこと
2026年7月、京都のあるデータ関連会社をめぐる大きな投資詐欺のニュースが流れた。弁護団が東京地検特捜部に刑事告訴する方針を固めた、という報道だ。被害は全国で約5,000人、総額はおよそ250億円にのぼるとされている。
手口はこうだ。投資家が「データサーバーの所有権」を買い、会社がそれを第三者に貸し出す。その収益で、3か月後に10%の利息をつけて買い戻すという約束だった。会社は「世界一安全なデータ保存」「国が応援している事業」と説明していたという。
報道の中に、こんな一文があった。63歳の男性が約4,000万円を失い、退職金がほぼ戻らない状態だ、と。読んでいて、胸が痛くなった。
わたしは投資で資産を築いてきた側の人間だけど、だからこそ思う。だまされる人は、決して「特別に愚かな人」ではない。話がよくできているのだ。でも、よくできた詐欺ほど、じつは同じ形をしている。順番に見ていく。
1. 何が「うますぎた」のか
まず、今回の話のどこが異常だったのかを整理してみる。
いちばん引っかかるのは、やっぱり利回りだ。3か月で10%を、仮に1年くり返せたとすると年40%になる。これがどれくらい非常識な数字なのか、まっとうな利回りと並べてみるとよくわかる。
世界中の株にまるごと投資して、長く持ち続けても、平均リターンはだいたい年5%前後。世界最大の機関投資家であるGPIFの通算成績ですら、年率4.7%ほどだ。プロが総力をあげても、これくらい。それを「元本は減らさず、年40%」で約束する時点で、もう成り立たない。誰も損をしないのに、みんなが儲かる仕組みは、この世に存在しない。
2. なぜ、かしこい人でも引っかかるのか
「そんなの怪しいに決まってる」と、外から見ている今なら思える。でも、当事者になると見えなくなる。だまされる話には、判断を止めさせる3つの仕掛けが、たいてい仕込まれているからだ。
ひとつめは、うますぎる利回り。人は「損したくない」より「儲け損ねたくない」の気持ちのほうが強く動く。「今だけ」「みんなやってる」と言われると、乗り遅れる不安が冷静さを上書きしてしまう。
ふたつめは、わかりにくさ。「データサーバーの所有権」のように、自分ではしくみを説明できないものほど、「きっとすごい仕組みなんだろう」と勝手に補ってしまう。理解できないことを、期待で埋めてしまうのだ。
みっつめは、特別感。「あなただけ」「国が応援している」「限られた人にだけ紹介している」。こう言われると、自分は特別な情報を手にした側だと錯覚する。ほんとうは、同じ言葉が5,000人にささやかれていたとしても。
この3つは、今回の事件にかぎった話じゃない。未公開株、暗号資産の高配当、SNSで届く投資の誘い。手を替え品を替え、中身はいつもこの3点セットだ。
3. だまされないために、わたしが決めている3つのこと
じゃあ、どうやって身を守るか。むずかしい知識はいらない。わたしは、次の3つを機械的なルールとして決めている。その場その場で考えて判断しようとすると、うまい話の勢いに流される。でも、先にルールとして決めておけば、考える前に止まれるからだ。
ひとつずつ、もう少し書く。
①相場からかけ離れた利回りや「確実」は疑う。先に言ってしまうと、これから挙げる3つのなかで、いちばん頼りになるのが、この①だ。さっきのグラフのとおり、世界中に分散したプロの運用でも年5%前後。だから、それを大きく超える「約束」が出てきたら、うまい話ではなく危ない話だと考える。とくに「元本保証」と「高利回り」がセットで出てきたら、その時点で成立していない。高いリターンには必ず高いリスクがくっついてくる。これは世の中のルールで、誰かの善意でねじ曲げられるものじゃない。ちなみに、まっとうな高配当株ですら配当が減らされるリスクはある。そして「必ず儲かる」「確実」という言葉も同じだ。投資に「絶対」はない。話術は人の気持ちを動かせても、数字そのものは動かせない。「年40%」は、どんなにうまく説明されても「年40%」のままだ。だから、迷ったときは、いつもこの①に戻ってくる。
②中身がわからないものは買わない。ただ、これは思っているより手ごわい。今回の詐欺も「サーバーの所有権を買って、それを貸した収益を分配する」と、それらしい説明は用意されていた。つまり「何に投資しているか」の説明だけなら、相手はいくらでも作れる。巧妙に偽装されると、②はかいくぐられてしまうことがある。わたしは自分の資産の中身を毎月公開しているけれど、それでも「わかったつもり」にさせられる怖さは、やっぱりある。だから②だけを頼りにはしない。「なんだかよくわからないな」と感じたら、無理に理解しようとせず、①に戻ってくる。“その利回り、本当にありえる?”と。結局、いちばん確実なのは①なのだ。
③特別な情報は、自分には来ない前提でいる。これは少し寂しい話だけど、大事なことだ。本当に確実に儲かる方法があるなら、その人は誰にも教えず、黙って自分でやる。わざわざ他人に、しかも見ず知らずのあなたに教えてくれる時点で、その「情報」の値打ちは怪しい。「あなただけ」と言われたら、警戒スイッチを入れる。本当に信頼できる情報は、一部の人だけが握っている“クローズな情報”ではなく、誰でもアクセスできる“オープンな情報”のほうだと思っているからだ。新NISAのようなふつうの制度が、まさにそれ。誰でも同じ条件で使えて、ルールも中身もすべて公開されている。閉じた場所でささやかれる話より、開かれた場所に置いてある話のほうを、わたしは信じる。
ただ、じつをいうと、この③がいちばん守るのはむずかしいかもしれない。「あなただけ」と言われて舞い上がっているときは、冷静な判断そのものが利かなくなっているからだ。だからこそ、気持ちに左右されない①を、いちばんの砦にしている。数字がありえるかどうかは、こちらの気分がどうであれ、変わらないから。
4. 怪しいと思ったら、感情より先に「確かめる」
ここまでは、心構えの話。でも実際に、目の前に具体的な勧誘が来てしまったら、気持ちだけでは止まれないこともある。そういうときのために、感情の前に手を動かして確かめられることを、あらかじめ順番として決めておくといい。次の6つだ。
①は、いちばん手前の防波堤だ。詐欺の多くは、自分から探しにいったものではなく、“向こうから”やってくる。SNSのメッセージ、ネット広告、知人を装った誘い。だから、知らない相手が持ちかけてくる儲け話には、そもそも乗らない。ここを閉じておくだけで、かなりの詐欺が入口ではじける。そのうえで、もし具体的な話に触れてしまったら、次を確かめていく。
とくに効くのが②だ。日本で投資家からお金を集めてよいのは、金融庁に登録された業者だけと決まっている。金融庁のサイトには「登録を受けた業者の一覧」と、逆に「無登録で営業していて警告を受けた業者のリスト」の両方が公開されている。勧誘してきた会社の名前を、そこで検索してみる。一覧に出てこない、あるいは警告リストに載っているなら、それだけで関わらない理由になる。
③も知っておくと強い。登録を受けていない業者が「元本保証」をうたってお金を集めることは、出資法という法律ではっきり禁じられている。だから「元本保証で高利回り」は、うますぎる話というより、その時点で違法だと考えていい。そもそも、銀行の預金や国債をのぞいて、元本を保証できる投資は基本的に存在しない。
④はとても具体的で、見抜きやすいサインだ。会社への投資のはずなのに、振込先が代表者などの個人名義の口座になっていたら、そこで手を止める。まともな会社が、事業で集めるお金を個人口座で受け取ることはない。
⑤と⑥は、SNS時代の入口対策。詐欺は「今だけ」「あなただけ」と契約を急がせて、冷静に考える時間を奪ってくる。逆にいえば、急かしてくる時点で怪しい。そして、勧められたアプリや暗号資産の名前をそのまま検索するだけでも、すでに注意喚起が出ていることは多い。有名人が「確実に儲かる話」を無料で配ることは、基本的にない。
じつは、わたしが証券口座を大手のネット証券にしか作らないのも、これと同じ理由だ。名の知れた登録業者だけを使っていれば、②から④はそもそも心配しなくていい。守りをシンプルに保つために、入口のほうを絞っている。
5. これは、氷山の一角
「250億円なんて、よほど珍しい大事件でしょ」と思うかもしれない。でも、残念ながらそうじゃない。詐欺の被害は、いま過去最悪の水準にある。
とくに増えているのが、SNSきっかけの投資詐欺だ。有名人や公的機関になりすました広告、マッチングアプリで知り合った相手からの勧誘。入口が身近になったぶん、被害額はこの1年で1.4倍にふくらんでいる。金融庁への相談も、2023年からの2年間で1万5,000件を超え、その8割以上が実際に被害を受けている。
「自分だけは大丈夫」。だまされた人のほとんどが、その一歩手前まで、そう思っていたはずだ。
6. いちばん怖いのは、お金が戻ってこないこと
詐欺の話で、わたしがいちばん強く伝えたいのはここだ。投資詐欺は、一度お金を渡してしまうと、取り返せる可能性がとても低い。今回の250億円も、どこまで戻ってくるかは見通せない。なぜ戻りにくいのか。理由を知っておくと、「入る前に止まる」ことがどれだけ大事か、腹に落ちると思う。
①は、まさにポンジスキームと呼ばれる、投資詐欺の王道パターンそのものだ。あまり聞き慣れない言葉かもしれないので、先に説明しておく。
今回の事件も、この構造だったとみられている。しかも、見学させていたサーバーはじつは他社のものだった疑いが報じられている。運用の実体そのものが、なかったのかもしれない。それでも、最初に配当さえ入れば、人は信じてしまう。だからこそ、お金を渡す前に止まることが、なによりの防御になる。
②と③は、犯人側が最初から「逃げ切る前提」で設計していることの裏返しだ。偽名と海外拠点で身元を隠し、いざとなれば「投資に失敗しただけ」と言い張る。追いかける側は、どうしても後手に回る。
④の二次被害は、とくにたちが悪い。だまされた人は「恥ずかしくて誰にも言えない」と抱え込みがちで、その気持ちにつけ込んでくる。だから、もし万一だまされたと気づいたら、隠さずに、まず公的な窓口に相談してほしい。警察相談は#9110、消費者ホットラインは188。逆に、「お金を取り戻す」と言って先に報酬を求めてくる相手は、二次被害の始まりだと思っていい。
つまり、詐欺に対する守りの本質は、「取り返す技術」ではなく「入口で入らない技術」にある。渡してしまえば、もう戻らない。だからこそ、入る前のほんの一手間がすべてを分ける。この記事の3つのルールと6つのチェックは、全部そのためのものだ。
7. あずきの視点。まっとうな投資は、退屈でいい
最後に、わたしの考えを書いておきたい。
投資詐欺のニュースを見て、いちばん強く思うのは、まっとうな投資は退屈だということ。世界中に分散して、長く持って、暴落が来ても売らない。つまりオルカンを淡々と積み立てる、それだけ。3か月で10%増えたりはしないし、明日の飲み会で自慢できるような派手さもない。
でも、その退屈さこそが安全の証だと、わたしは思っている。わたしの資産は2018年に投資を始めてから、5年かけて1,300万円から4,886万円に増えた。年にならせばよくある数%の積み重ねで、途中には停滞も暴落もあった。地味で時間はかかったけれど、消えて逃げる相手はいない。全部、自分の口座の中にある。
詐欺は「早く、確実に、特別に」あなたを豊かにすると言ってくる。まともな投資は「ゆっくり、確率的に、誰にでも」としか言わない。派手なほうに惹かれる気持ちはわかる。でも、お金を守るというのは、その退屈さに耐えることなんだと思う。
まとめ
- 京都のデータ関連会社をめぐる投資詐欺で、全国約5,000人・総額約250億円の被害。退職金4,000万円を失った人も
- 手口は「3か月で10%(年およそ40%)」「世界一安全」「国が応援」「わかりにくい商品」の組み合わせ
- だまされる話には共通の仕掛けがある。うますぎる利回り・わかりにくさ・特別感の3点セット
- あずきのルール①(これが本命):相場からかけ離れた利回りや「確実」は疑う。数字は話術でごまかせないので、いちばん確実な物差し。②は巧妙に偽装され、③は冷静さを欠くと効きにくいぶん、最後は①に立ち返る
- あずきのルール②:中身がわからないものは買わない。“何に、どういう仕組みで”投資しているかを、自分が腑に落ちるまで説明できるものだけ持つ。詐欺はもっともらしい説明を用意しているので、その説明で本当に利益が出るかまで追う
- あずきのルール③:「あなただけの特別な情報」は、自分のところには来ない前提でいる
- 具体的な確認は、感情より先に。そもそも知らない相手からの儲け話に乗らない/金融庁の登録業者一覧・警告リストで名前を検索/振込先が個人名義/「元本保証×高利回り」は出資法違反
- 詐欺被害はいま過去最悪。SNS型の投資詐欺は2025年に約1.3兆円で前年の1.4倍
- いちばん怖いのは、渡したお金がほぼ戻らないこと。海外送金や換金で原資が消え、犯人の特定も詐欺の立証も難しい。守りの本質は「取り返す」より「入口で入らない」
- まっとうな投資は退屈でいい。ゆっくり・確率的に・誰にでも。その退屈さが、お金を守る
詐欺が約束する「特別な情報」はいりません。誰でも開けるNISA口座で、世界中に分散したインデックスや高配当株をコツコツ積み立てる。それがいちばん退屈で、いちばん確実な方法だと思っています。わたしが8年使っているメイン口座です。
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