わたしたちの年金が41兆円の黒字。なのに「もらえる年金」が増えないのはなぜ?仕組みを調べてみた
2026年7月3日、こんなニュースが流れた。わたしたちの年金積立金を運用しているGPIFの2025年度の成績が、約41.4兆円の黒字だったという(出典:TBS NEWS DIG)。しかも6年連続の黒字で、金額は運用開始以来、過去2番目の大きさ。国民1人あたりに直すと、ざっくり33万円ぶん増えた計算になるらしい。
わたしが入っているリベシティの学長マガジンでも、さっそくこのニュースが取り上げられていた。解説がとてもわかりやすくて、この記事を書くきっかけになった。
それにしても、すごい数字だ。でも、ここでふと思う。「じゃあ、わたしたちが将来もらえる年金も増えるの?」
調べてみると、答えは「そう単純じゃない」だった。そして、その理由を掘っていくと、年金の仕組みそのものがすっきり見えてきた。ついでに、GPIFの運用の中身が、わたしたち個人投資家にとってものすごく心強いお手本になっていることもわかった。順番に書いていく。
1. ニュースの要点
まず、事実の確認から。
2. そもそもGPIFって、何者?
GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は、わたしたちが納めた年金保険料のうち、いますぐ支払いに使わない「余り」を運用している組織だ。
規模は約294兆円。世界最大級の機関投資家で、その存在感から海外では「クジラ」なんて呼ばれている。ちなみにわたしの資産は約5,800万円なので、クジラはわたしのおよそ500万倍。もう大きさの想像がつかない。
3. 中身は、驚くほど「ふつう」だった
294兆円を動かすプロ集団だから、さぞ特別な投資をしているんだろう。そう思って中身を調べると、驚くほどシンプルだった。
世界中の株と債券を、まるっと4等分して持っているだけ。奇をてらった銘柄選びも、タイミングを狙った売り買いもない。徹底した長期・分散。わたしたちがコツコツやっているインデックス投資と、発想はまったく同じだ。
わたしのポートフォリオと比べてみると、面白い。わたしはS&P500とオルカン中心の株寄せで、債券はBNDを少し持っているだけ。GPIFは債券が半分を占める、ずっとマイルドな設計だ。それでも2001年からの通算では累積収益約197兆円、年率平均+4.7%。この四半世紀にはITバブル崩壊もリーマンショックもコロナショックもあったのに、である。
グラフにすると、こうなる。
見てのとおり、暴落のたびにしっかり凹んでいる。リーマンショックでは、それまでの利益がほぼ吹き飛んだ。それでも売らずに続けた結果が、この右肩上がりだ。
債券を半分混ぜた「守りの利いた分散」でも、長く続ければ年4.7%。この数字は、これから投資を始める人にとって、けっこう希望のある目安だと思う。
4. 去年4月の暴落でも、売らなかった
じつは、2025年度のスタートは最悪だった。
2025年4月、トランプ関税ショックで世界中の株価が急落して、日経平均は一時3万1,000円台まで下げた。「NISA、やめたほうがいいのかな」と不安になった人も多かったと思う。
そのとき、294兆円を預かるGPIFはどうしたか。何もしなかった。慌てて売らず、ポートフォリオの配分を守って、淡々と持ち続けた。そして1年たってフタを開けたら、過去2番目の黒字。もしあの暴落で売っていたら、この41兆円はなかったことになる。
これ、どこかで聞き覚えのある話だと思う。そう、ジョン・ボーグルの「航路を守れ」だ。わたしも2022年の停滞相場で売らずに積み立て続けて、翌年にまとめて報われた経験がある。個人の数千万円でも、国の294兆円でも、やることは同じ。暴落で売らない。ただ市場に居続ける。それを世界最大のクジラが、身をもって証明してくれた(暴落との向き合い方はこの記事にも書いた)。
5. で、本題。なぜ「もらえる年金」は増えないのか
ここからが、今日いちばん調べたかったところ。41兆円も増えたのに、なぜわたしたちの年金は増えないのか。
理由は、公的年金が「仕送り方式」だから。いま現役世代が払っている保険料は、積み立てられて自分に返ってくるのではなく、そのまま、いまの受給者への支払いに使われている。自分の年金を自分で積み立てる方式ではないのだ。
そして、年金給付の財源は大きく3つに分かれている。
ポイントは、この3つの比率だ。今後100年間でならすと、給付の約9割は①と②の「仕送り」でまかなわれ、GPIFの積立金が受け持つのは約1割だけとされている。
年金給付を10個のブロックに見立てると、こういうことだ。
つまり、毎月の年金額を決めているメインの財源は、あくまで現役世代からの仕送り。少子高齢化で仕送りする人が減っていくから、給付の水準はじわじわ調整されていく。GPIFの運用がどれだけ絶好調でも、明日の年金が増えるわけではない。「運用している貯金」は絶好調だけど、「毎年の仕送り」はしんどくなっていく。この2つを分けて考えるのが、正しい理解らしい。
ただし、絶望する話でもない。この「とっておきの貯金」が294兆円まで育っているおかげで、将来世代の年金の目減りをやわらげ、制度が破綻からどんどん遠ざかるという効果は、間違いなくあるからだ。
6. あずきの視点。年金は「破綻しない。でも、それだけでは足りない」
このニュースを踏まえた、わたしのスタンスを書いておきたい。
まず、よく聞く「年金はどうせ破綻するから、払うだけムダ」という意見。わたしは、そうは思っていない。数々の暴落をくぐり抜けて累積197兆円・年率4.7%という通算成績を見れば、積立金は思ったよりずっと堅実に運用されている。破綻論に踊らされて保険料を払わない選択をするほうが、よほどリスクが高いと思う。
でも同時に、「年金があるから何もしなくて大丈夫」とも思っていない。とくにわたしのようなフリーランスは国民年金が土台で、見込み額は月9万円ほど。仕送りの担い手が減っていく以上、給付水準の調整もこれから続く。だから老後の豊かさは、結局自分の資産形成しだいだ。
もうひとつ、今回のニュースで考えさせられたことがある。報道の温度差だ。運用がマイナスだった年には「年金、○兆円の損失」と大きく報じられがちなのに、過去2番目の黒字だった今回は、扱いが控えめだったり、そもそも報じていないメディアもあったらしい。インデックス投資家の大先輩・水瀬ケンイチさんが、ブログで各社の報道ぶりを実際に調べている(梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー)。これがなかなか面白いので、気になる方はぜひ読んでみてほしい。
下がるときは大音量で、上がるときは静か。これは年金にかぎらず、投資のニュース全般にいえることだと思う。見出しの音量に感情を揺さぶられると、いちばん大事な「売らない」が守れなくなる。だからわたしは、ニュースの大きさではなく、数字そのものを見るクセをつけるようにしている。毎月自分の資産を記録して公開しているのも、じつはその練習みたいなものだ。
そして、その資産形成のお手本を、今回のニュースがそのまま見せてくれている。世界一のクジラがやっているのは、長期・分散・売らない。それだけだ。特別な情報も、派手なテクニックもいらない。わたしが自分の口座でやってきたこと、これからも続けることと、まったく同じだった。
次に暴落が来たとき、294兆円のクジラが「慌てず、売らず」で41兆円の黒字を出したこの話を、思い出せるようにしておきたい。
まとめ
- GPIFの2025年度は約41.4兆円の黒字(過去2番目)・収益率+16.47%・6年連続黒字。国民1人あたり約33万円ぶん増えた計算
- GPIFの中身は、国内外の株と債券を25%ずつ持つ「ど分散」。わたしたちのインデックス投資と発想は同じ
- 債券半分のマイルド設計でも、2001年からの通算は累積約197兆円・年率+4.7%。数々の暴落込みの成績
- 2025年4月のトランプ関税ショックでも売らず、淡々と持ち続けた結果がこの黒字。「航路を守れ」の巨大な実例
- ただし年金は仕送り方式で、給付の約9割は現役世代の保険料と税金。積立金の受け持ちは約1割なので、運用が好調でも「もらえる年金」がすぐ増えるわけではない
- 年金制度は思ったよりずっと堅実。でも、年金だけで老後がまかなえるわけでもない。豊かさは自分の資産形成しだい
- 報道は下がる年ほど大音量で、黒字の年は静かになりがち。見出しの音量ではなく、数字そのものを見るクセを
- 個人がやることもクジラと同じ。長期・分散・売らない
GPIFがやっているのは、世界中の資産に分散して長く持ち続けること。個人がそれを再現するいちばん簡単な方法が、NISA口座でのインデックス積立です。SBI証券ならオルカン・S&P500の自動積立から高配当株まで一気通貫。わたしが8年使っているメイン口座です。
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