ゴルフ会員権が8割高。わたしの知らない世界をのぞいてみた
10月18日の日本経済新聞に、「ゴルフ会員権8割高」という見出しが載った。
たまたま、前の会社の先輩が会員権を買っていて、なるほどー、と思っていた。要はデポジットみたいなもので、いらなくなったら売れる。そう思えば、けっこうお得な印象もあった。でも、名義変更とか、よくわからないものにお金がかかる。独特の世界だ。
わたしは、ゴルフをしない。友達に誘われてはいるけれど、ゴルフ場へのアクセスなどを考えると、ペーパードライバーなので、ハードルが高い。外から見ていて気になる、この世界をのぞいてみた。
1. 8割高って、どういうこと?
日経の記事は会員限定で、くわしい中身は読めなかった。ただ、日経は毎月、会員権の相場を伝えている。もとにしているのは、関東の業者の集まりである、関東ゴルフ会員権取引業協同組合(KGK)の、主要150コースの平均価格だ。
コロナ前の2020年2月は、166.5万円だった。それが2026年7月には305.2万円。1.8倍あまりで、8割ほど高い。見出しの「8割高」は、この比べ方だと思われる。2026年7月は、2009年11月以来、16年半ぶりの高さだという。
ただ、業者が売る会員権の値段には、消費税がかかる。2021年4月からは、この平均も税込みの金額に変わっている。税の分をのぞくと、上がり幅は7割近くになる(わたしの計算)。
勢いは、少し落ち着いてきた。会員権の業者の桜ゴルフによると、関東の相場は9月に下がり、年初から8か月続いた値上がりが止まった。売りたい人のほうが、買いたい人より多い。年会費を上げるゴルフ場も、2026年は211か所あり、安いコースを中心に、手放す人も出ている。
2. バブルのころと比べると?
それでも、バブルのころと比べると、まだずっと安い。
全国の会員権の平均は、1990年のはじめに、4,000万円弱まで上がっていた(住地ゴルフの数字、日経の記事から)。その後は下がり続け、2011年12月には122万円。ピークの約33分の1だ。
今の全国の平均は、業者によって93万〜112万円くらい。集計のしかたがちがうので、きっちりとは比べられない。それでも、ピークの数十分の1にとどまっている。
1つのコースで見ると、もっとわかりやすい。東京の小金井カントリー倶楽部の会員権は、バブルのころに4億円をこえていた。今は3,640万円だ(2026年10月18日、ゴルフホットライン)。
3. 会員権は、デポジットなの?
わたしの感覚では、要はデポジットみたいなもの、だった。会員権には、いくつかの種類がある。
預託金制の会員権は、まさにデポジットだ。ゴルフ場にお金を預けて、10年ほどたったら、退会するときに返してもらえる約束になっている。
10年たつ前でも、会員権を相場で人に売ることはできる。そのときは、預託金を返してもらう権利ごと、次の人に引き継がれる。返してもらえるのは、最初に預けた額のままだ。ただ、売り値は、預けた額ではなく、そのときの相場で決まる。
では、相場が、預けた額より安くなったら、どうなるか。人に売ると損をするので、ゴルフ場に「預けたお金を返して」と言いたくなる。バブルのあと、まさにそれが起きた。
例えると、家を借りるときの敷金に近い。出ていくときに返してもらう約束で、お金を預ける。ところが、大家さんは、そのお金で家を建てていて、手元に残っていない。会員権の値段が下がったとき、みんながいっせいに「預けたお金を返して」と言った。でも、返すお金がなかった、というわけだ。
業者の桜ゴルフは、今では、預託金制のゴルフ場の約8割が、資金難で返せないか、倒産で大きく減らされている、と説明している。
では、会員権の値段が上がっている今は、どうなのか。相場が預けた額を上回っていれば、会員は、ゴルフ場に返してもらうより、相場で売るほうが得になる。だから、相場が上がると、「返して」という声は出にくくなる。ゴルフ場にとっては、追い風だ。
ただ、10年たったら、かならず返してもらえるとはかぎらない。返す時期を、理事会で10年延ばしたゴルフ場もある。裁判では、延長は認められず、返すように命じられた。2026年にも、返す時期を前にして、民事再生を申請したゴルフ場が出ている。
4. 株に近い、独特の仕組み
先輩の話を聞いていて、株に近い感じがした。数が限られていて、なんか変なエコシステムが働いている。
株とならべてみると、その感じの正体が見えてくる。
似ているのは、数が限られていて、毎日相場が立ち、仲介する業者がいるところだ。桜ゴルフのような業者は、株でいえば、証券会社に近い役割をしている。
ちがうのは、だれでも買えるわけではないところ。お金を出せば、すぐに買える株とちがって、人とのつながりや、審査がついてくる。買うときに、名義書換料のような、株にはないお金もかかる。
5. 会員権の、本当のコストは?
名義変更とか、よくわからないものにお金がかかる。その正体は、「名義書換料」だ。会員権を買って会員になるとき、ゴルフ場に払う手数料のことで、これは売っても返ってこない。
小金井カントリー倶楽部では、会員権の3,640万円に、名義書換料の2,200万円が加わる。年会費は、66万円だ。群馬の甘楽カントリークラブは、会員権が8万円なのに、名義書換料が44万円。会員権の値段より、諸費用のほうが高い。
年会費は、会員が毎年ゴルフ場に払うお金だ。会員でない人(ビジター)は、年会費を払わない。そのかわり、1回ごとのプレー料金が、会員より高い。小金井カントリー倶楽部では、会員とビジター(土日)の料金の差が、1回で3万円をこえる(2020年4月時点の業者の資料)。
では、会員になって払うお金を、この1回ごとの割引でとりもどすには、何回行けばいいのか。
10年通うなら、毎年88回ほど。週に2回近く行って、ようやくもとが取れる。長く通うほど、最初に1回だけ払う名義書換料が、長い年数に分かれるので、1年あたりの回数は減る。それでも、年会費は毎年かかるので、30年通っても、毎年40回あまり行く必要がある。
もちろん、会員になる理由は、お金だけではない。会員権の業者のゴルフホットラインは、会員になる良さとして、こんなことを挙げている。
- 予約が取りやすい:会員だけの優先の枠で、予約ができる
- 競技会に出られる:毎月の月例競技など、クラブの競技会に参加できる
- 公式のハンディキャップ:スコアを出して公式のハンディキャップを取ると、日本ゴルフ協会などが開く競技会にも出られる
6. 投資として見ると?
お金のブログなので、投資としての価値も考えておきたい。
会員権は、売ればお金にもどる。その意味では、持ち物として価値がある。ただ、投資として見ると、買った瞬間に名義書換料の分だけ損をして、持っている間も年会費が出ていく。この分を、値上がりで取り返す必要がある。
ここ数年は、関東の人気コースを中心に値上がりした。ただ、どのコースでも上がっているわけではない。
例えると、別荘を買うのに近い。使うために買い、売ればいくらかは戻ってくる。でも、買うときに手数料がかかり、使わなくても管理費は毎年かかる。値上がりを狙って買うものというより、使う人が、使いながら持つものに近い、というわけだ。
だから、投資として考えるより、軽井沢に別荘がほしい、ゴルフがしたい、という、自分がやりたいことにお金を使う、という発想のほうが、よいのかもしれない。
7. わたしは、どう思う?
わたしは、会員とか年会費とかは好きではない。年会費を払って、頻繁に行くとお得、みたいなものは、トータルで損をすると思っている。
that will accept me as a member.
入りたくない。
アメリカの喜劇俳優、グルーチョ・マルクスの言葉だ。マルクス兄弟として、1930年代の映画で人気を集めた人で、毒の効いた冗談で知られる。ハリウッドの芸能人のクラブ「フライアーズ・クラブ」をやめるときの言葉として、知られている。1959年の自伝『Groucho and Me』では、クラブの名前を変えて、退会を伝える電報の一文として書いている。
わたしを入れてくれるようなクラブなら、たいしたクラブではない。そう言って、自分を少し下げてみせる冗談だ。クラブに入るには、選ばれる必要がある。会員権の世界も、お金を払うだけでなく、審査や紹介がついてくる。
わたしは、都度、正規の料金を払うほうがシンプルで好きだ。
8. まとめ
- 関東の主要150コースの会員権の平均は、2020年2月の約167万円から、2026年7月に約305万円へ上がった
- それでも、1990年に4,000万円弱だった全国の平均と比べると、今はその数十分の1
- 預託金制の会員権は、まさにデポジット。ただ、返せずに破綻したゴルフ場が相次ぎ、97.5%カットされた例もある
- 数が限られ、毎日相場が立ち、入会には審査がいる。株に近いけれど、独特の世界だ
- 会員権の値段のほかに、名義書換料や年会費がかかる。名義書換料と年会費は、売っても返ってこない。値段より諸費用のほうが高い例もある
- 投資として見ると、名義書換料と年会費の分を、値上がりで取り返す必要がある。値上がりしたのは、関東の人気コースが中心だ
- わたしは、会員とか年会費とかは好きではない。都度、正規の料金を払うほうがシンプルで好きだ
・会員権の相場:関東ゴルフ会員権取引業協同組合、日本経済新聞(2020年3月10日)、同(2025年8月17日)、同(2026年2月20日)、同(2026年8月26日)、桜ゴルフ、同(ゴルフマーケット情報 2026年10月号)、ゴルフホットライン
・バブルのころ:日本経済新聞(2014年2月7日)、同(2011年12月)、J-CAST ニュース(2011年、小金井カントリー倶楽部)
・会員権の種類:桜ゴルフ(会員権の種類)、桜ゴルフ(相場のしくみ)、ゴルフホットライン(株主会員の募集の例)、関東ゴルフ会員権取引業協同組合
・預託金の問題:税務大学校論叢32号、東京商工リサーチ(ゴルフ場の倒産)、有斐閣Online、裁判所(据え置き期間を延ばした例の判決)、東京商工リサーチ(三河カントリークラブ)、帝国データバンク(六石ゴルフ倶楽部)
・かかるお金:ゴルフホットライン(小金井カントリー倶楽部)、同(群馬県のコース)、同(メンバーとビジターの料金)、同(会員権のメリット)、一季出版(年会費の調査)、桜ゴルフ(よくある質問)
・税金:国税庁
・格言:グルーチョ・マルクス『Groucho and Me』(1959年)、' + A.format("https://quoteinvestigator.com/2011/04/18/groucho-resigns/","Quote Investigator") + '
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