お金で「待ち時間」を買う時代。わたしが時間を買っているのは、道具だった
お金持ちは、お金を使うのが上手。わたしには、そんなイメージがある。払うべきものには払って、払わなくていいものには払わない。それを、いちいち計算するのではなく、自然とやっている。言葉にすると、「時間単価」という考え方なのかもしれない。
10月10日、TBS CROSS DIGに、ニッセイ基礎研究所の廣瀬涼さんが書いた「時間を買う」話のレポートが載っていた。飲食店や病院で、追加料金を払えば待たずに済む「有料ファストパス」が広がっている、という話だ。
🧮「時間単価って、どうやって考えるの?」
🛠「わたしは、何にお金を払って時間を買っている?」
✈️「お金持ちは、どうやって時間を買っている?」
先に、わたしの答えを書いておく。わたしが時間を買っているのは、行列よりも、毎日使う道具だった。仕事が速く正確になるものや、便利になるものには、お金をかける。待つことにお金を払うかどうかは、そのときの状況しだいだ。
順番に見ていく。
1. 有料ファストパスって、何を買っているの?
まず、レポートに出てくる例から。
レポートによると、ここで買っているのは、よりおいしい料理でも、より高度な診療でもない。だれもが同じように待っていた「待ち時間」を、短縮する権利だ。待てば1円もかからないのに、その権利に値段がついている。
廣瀬さんは、もう一歩ふみこんで書いている。時間そのものを、お金で増やせるわけではない。お金で省いているのは、移動する、待つ、作る、といった「手間」のほうだ。フードデリバリーや掃除の代行も、これと同じ。
もう1つ、気になる指摘もあった。これまで行列は、お金があってもなくても同じように並ぶ、ある意味で平等なしくみだった。お金で待ち時間を短縮できるようになると、お金の差が、そのまま「時間の差」になるかもしれない、という見方だ。
考えてみれば、花火大会の場所取りもそうかもしれない。ひと昔前は、朝から場所を取って、いい場所で花火を見るのがふつうだった。いまは、いい席が有料の観覧席として売られていることが多い。お金を払えば、何時間も前から並ぶ必要はない。
2. 時間単価って、どうやって考えるの?
2つ目の疑問。お金で時間を買うかどうかを決めるとき、ものさしになるのが「時間単価」、つまり自分の1時間の値段だ。わたしは、リベ大の両学長の発信で、これをより意識するようになった。
ポイントは、働いている時間だけでなく、通勤や身支度の時間も入れること。同じ月給でも、残業や通勤が長い人ほど、1時間の値段は安くなる。
1時間の値段がわかると、いろいろなものの損得を、数字で比べられるようになる。両学長の動画に出てくる例で、計算してみた。
まず、道具。高い道具を買うとき、値段だけを見ると迷う。でも、浮く時間をお金に直すと、意外と早く元がとれることがわかる。計算してみると、いい道具にお金をかける理由が、数字で見えてくる。
次に、住む場所。家賃の安さだけで遠くに住むと、自分の時間を、思ったより安い値段で売っていることがある。往復1時間40分(神奈川県の平均)の通勤を40年続けたとして、1日8時間労働に直すと、約8年分の労働時間になるという話もある。毎日くり返す時間ほど、見直したときの効き目は大きい。
最後に、見た目の時給。時給が高く見える仕事でも、行き帰りや準備の時間まで入れると、本当の時給は下がる。逆に言えば、待ち時間や移動時間に仕事ができるなら、そのぶん本当の時給は上がる。
ただ、時間単価だけでなんでも決めてしまうと、見えなくなることが2つある。
1つは、自分の成長や自己投資は、時間単価では考えにくいことだ。勉強や読書、新しい仕事は、始めたばかりのころは、ほとんどお金にならない。いまだけで考えると、手を出せなくなる。でも、あとから1時間の値段を大きく上げてくれるのは、そういう時間だったりする。
もう1つは、時間では測れない価値、プライスレスな経験や体験だ。親孝行、友人との時間や食事、旅行などを、1時間いくらで測ると、大事なものを見落としてしまう。時間単価は、損得を比べるためのものさしの1つにすぎない。
3. わたしは、何にお金を払って時間を買っている?
3つ目の疑問。並べてみると、お金で時間を買っているのは、ほとんどが道具だった。
たとえば、ドラム式洗濯機があれば、天気や時間帯を考えずに、いつでも洗濯できる。もちろん、干す手間もない。洗濯のことを考えなくていいので、頭が空く感じがする。
AIは、いつでもどこでも相談できる。たとえば会社なら、上司や部下に、夜中に相談することはできない。わたしにとってAIは、24時間対応してくれる優秀な秘書を雇っている感覚だ。
しかも、本当に秘書を雇うのと比べると、ずっと安い。仮に時給1,500円で、人に月160時間働いてもらうと、それだけで月24万円になる。夜中や休日に相談しようと思ったら、もっとかかる。それに、ほとんどの人より賢くて、知識も豊富となると、時給5,000円でも雇えないと思う。
デュアルモニターについては、おもしろいデータがある。ユタ大学の実験(2004年)では、画面を2枚以上にすると、資料を直す作業が7%速くなり、間違いは33%へった。モニターなどのメーカーがお金を出した実験なので、少し割り引いて見たほうがいいけれど、わたしの実感にも近い。
いい椅子は、オフィス家具のオカムラの記事にも書いたとおり、ずっと気に入って使っている。これも、時間に直してみるとわかりやすい。仮に20万円の椅子を、1日8時間、年240日、10年使うとする。座る時間は、全部で約1万9,200時間。1時間あたりにすると、約10円だ。腰や肩の疲れがへって、仕事に集中できる時間がのびるなら、十分に元がとれると思う。
では、行列はどうか。なんでもかんでもファストパス、とはならないかもしれない。でも、お金に余裕があるなら、待たないほうがいいに決まっている。特に、外で長い時間、何もできずに待つのは、時間がもったいないと感じる。
ただ、わたしの場合、PC1台である程度、仕事ができる。Wi-Fiがあって椅子がある場所なら、待つのもそれほど苦にならない。お金を払って待ち時間を短縮するか、待つ時間を使うか。そのときの状況によるのかもしれない。
4. お金持ちは、どうやって時間を買っている?
4つ目の疑問。お金持ちの時間の買い方で、わかりやすいのは移動だと思う。たとえば、飛行機のファーストクラス。わたし自身は乗ったことがないけれど、ファーストクラスなら、乗る前はラウンジで快適に仕事ができる。機内でも、まわりを気にせず作業をしたり、足を伸ばして眠ったりできる。移動のあいだに体を休めて、着いた先でいい仕事をする。自由度が、まるでちがう。
タクシーもそうだ。家から目的地まで、移動しながら電話やPCの作業ができる。乗り換えも、満員電車のストレスもない。時間単価が5,000円の人なら、タクシーで10分早く着くだけで、約830円分の時間を取りもどしたことになる。移動中に仕事ができれば、その分も上乗せされる。
時間単価が高いことが前提にはなるけれど、そうやって自分が働いて稼ぐことに集中するのは、合理的だと思う。
これは、お金持ちだけの話ではない。ふつうの家庭でいえば、時短家電を買うお金を惜しんで、結局、自分の時間を安売りして疲れてしまうことがある。洗濯機、掃除機、食洗機。パナソニックの試算では、食洗機を手洗いの代わりに使うと、1人暮らしでも年に約69時間、2〜3人の家族なら約165時間が浮く。道具にまかせて空いた時間で、暮らしを豊かにする選択は、思っている以上にあるのかもしれない。
5. わたしの見方
時間を管理できなければ、ほかの何も管理できない。
経営学者のドラッカーが、仕事で成果を出す人について書いた本の言葉だ。お金は増やせるけれど、時間は、だれにとっても1日24時間しかない。
有料ファストパスは、その24時間の中の「待つ時間」を、お金で買えるようにした。こういうしくみは、これから増えるかもしれない。お金の差が時間の差になる、という見方もわかる。でも、時間を買う方法は、待ち時間を短縮することだけではない。洗濯機や食洗機のように、多くの家庭で手が届く道具で手間を減らすことでも、自由に使える時間は作ることができる。わたしが、行列よりも毎日使う道具で時間を買っているのも、同じ考え方だ。
もう1つ大事なのは、空いた時間の使い道だ。全部をお金に変える必要はない。しっかり眠る、ごまもちと散歩する、家族や友人と過ごす。何に使うかを自分で自由に決められる。それが、時間を買ういちばんの価値なのかもしれない。
6. まとめ
- 飲食店や病院で、追加料金を払えば待たずに済む「有料ファストパス」が広がっている
- 買っているのは時間そのものではなく、待つ・移動するといった手間を省くこと。お金の差が時間の差になる、という見方もある
- ものさしは時間単価。通勤や身支度の時間も入れて、自分の1時間の値段を出すと、道具や住む場所の損得が数字で見える
- ただし、自己投資や、親孝行・友人との時間のようなプライスレスな体験は、時間単価では測りにくい
- わたしが時間を買っているのは、ドラム式洗濯機、AI、最新のiPhoneとPC、デュアルモニター、いい椅子
- 待つことにお金を払うかは状況しだい。Wi-Fiと椅子があれば、待つ時間も仕事に使える
- ふつうの家庭でも、時短家電で時間は買える。大事なのは、空いた時間を何に使うかを自分で決めること
・時間単価の考え方:両学長 リベラルアーツ大学「第1回 お金持ちになる時間単価の考え方」(2018年)、同「通勤に8年分の労働時間を使ってるってホント!?」、同「成功を遠ざける『時給思考』の5つの罠」
・家事の時間:大阪ガス「乾太くん」(洗濯物を干す時間のアンケート、2020年11月)、パナソニック「手洗いVS食洗機 節約シミュレーション」
・デュアルモニター:Colvin, Tobler, Anderson "Productivity and Multi-Screen Computer Displays", Rocky Mountain Communication Review(2004年。ATI、NEC/三菱が資金を提供)
・格言:Peter F. Drucker, "The Effective Executive"(1966年)。原文は「Time is the scarcest resource, and unless it is managed nothing else can be managed.」訳はわたし




