国内初の「森林ファンド」とは?森とお金のつながりを調べてみた
「国内初の森林ファンド」。10月19日の日本経済新聞に、こんな見出しが載った。1,000億円を、日本の森に投じるという。
最初に見出しを読んだとき、わたしは、個人が買える投資商品なのかと思った。同時に、流行りのあやしいもののような匂いもした。
森との接点は、あまりない。でも、自然は大事にしたい。どんな可能性があるのかも気になる。森とお金の話を、調べてみた。
1. 国内初の森林ファンドって、どんなもの?
日経の記事は会員限定で、読めたのは最初の部分だけだった。わかったのは、次のことだ。
- 投資ファンドのアドバンテッジパートナーズが、早ければ2027年春にファンドをつくる
- 銀行や商社、ゼネコンなど、10社を超える企業が加わり、5〜7年で1,000億円くらいを投じる
- 三井住友信託銀行、東京センチュリー、丸紅、三菱UFJ銀行が、参加を話し合っている。大林組や九州電力の名前も出ている
- ねらいは、民間のお金で森林の権利をまとめて、お金を生む森にすること
日本の森だけに投資する大きなファンドは、これが初めてだそうだ。ただ、くわしい中身は、まだわからない。木を売って稼ぐのか、カーボンクレジット(二酸化炭素を減らしたり、吸ったりした分を、売り買いできるようにしたもの)を売って稼ぐのか。森を持ち主から買い取るのか、持ち主はそのままで、森の手入れや木の販売を任せてもらうのか。詳細はこれからだ。
これまで、日本の会社が森林ファンドにお金を出すときは、ほとんどが海外の森だった。
北米には、森を売り買いする市場や制度が整っている。住友林業のファンドには、住友林業を含む日本の会社10社が加わった。今回の「10社超」と、形がよく似ている。
2. 個人は買えるの?
答えは、おそらく「買えない」だ。
日経に名前が出ているのは、銀行や商社などの会社だけ。アドバンテッジパートナーズのふだんのファンドも、お金を出しているのは、年金や銀行、保険会社などの機関投資家だ。
プロ向けのファンドには、法律のしばりもある。今回のファンドがどの形になるかは、まだわからない。ただ、届出だけで運用できる形のファンドは、2015年の法改正(2016年施行)で、一般の個人が原則として出資できなくなった。例外は、株などの資産を1億円以上持ち、証券口座を開いて1年以上たった人など、ごく一部だけだ(金融庁)。
小さな、個人向けの森林ファンドが、なかったわけではない。岡山県の西粟倉村では、2009年に「共有の森ファンド」が1口5万円で募集され、420人から4,940万円が集まった。でも、戻ってきたお金は、出したお金の約78%。元本割れだった(林野庁の委託調査)。
3. なぜ今、日本の森にお金が?
日本は、国土の約3分の2が森だ。森の木の量も、増え続けている。
1966年から2022年で、約2.9倍。毎年およそ6,000万m³ずつ増えていて、国内で使う国産材(2024年に3,481万m³)より多い。戦後に植えた人工林の約6割が、50年をこえて、伐りどきを迎えている。
木は、たくさんある。ただ、売っても、もうかりにくい。木の値段が、大きく下がっているからだ。
山に立ったままの木の値段は、持ち主の手取りに近い。スギは、1980年の1m³あたり2万2,707円から、2025年には4,026円。ピークの2割にも届かない。
値段が下がったうえに、持ち主が小さくて、ばらばらなことも、大きな壁になっている。
例えると、持ち主がばらばらの、古い商店街に近い。1軒ずつでは、建て替えも、駐車場づくりもできない。持ち主が遠くに住んでいたり、だれの店かわからなくなっていたりもする。まとめて1つの計画にできれば、ようやく大きな手が打てる、というわけだ。
では、なぜ今なのか。ここからは、わたしの見方も入る。変わり始めたことが、2つある。
1つめは、法律だ。2026年4月に、森林経営管理法が変わった。地域で森をまとめる計画をつくりやすくなり、共有の森の間伐などに必要な同意も、「全員」から「持ち分の2分の1をこえる人」に。持ち主がわからない森の手続きも、6か月から2か月に短くなった。
2つめは、J-クレジットだ。1章で出てきたカーボンクレジットの、日本版にあたる。森が吸った二酸化炭素の分を国が「クレジット」として認め、企業に売れるようにする。
例えると、企業がどうしても出してしまう二酸化炭素の分を、森に吸ってもらったことにして、その分のお金を払うのに近い。企業は出した分を埋め合わせでき、森の持ち主には、木を売る以外の収入が入る仕組みだ。
クレジットは、森のほかに、省エネや再エネの設備からも生まれる。森林由来のクレジットは、東証の取引で、二酸化炭素1トン分あたり平均5,584円(2026年3月末までの平均)。省エネ由来(2,927円)や再エネ由来(4,590円)より高い。
量も増えている。制度が始まってから、森林由来のクレジットとして認められたのは、合計240.1万トン分。そのうち100.5万トン分、約4割は、2025年度の1年だけで認められた。
2026年度からは、国の排出量取引の仕組みも、本格的に始まった。大きな企業ごとに、二酸化炭素を出してよい量の枠を決め、枠が足りない企業と余った企業が、枠を売り買いする仕組みだ。ここでも、J-クレジットを買えば、出した量の1割までなら差し引ける。
森をまとめやすくなり、木のほかにも売れるものが広がった。今回のファンドが、なぜ今なのかは、日経の続きを読まないとわからない。それでも、この2つがそろったことと、関係がありそうだ。
4. 「あやしい匂い」の正体は?
森そのものは、本物の資産だ。米国では、森を持つ会社が株式市場に上場していて、株として売り買いされている。
あやしいのは、森や水、二酸化炭素、環境といった言葉を、よくわからない権利と組み合わせて、個人に売る話だ。実際に、こんなトラブルがあった。
とくに件数が多いのは、原野商法の二次被害だ。1970〜80年代に「値上がりする」と売られた山林や原野を持つ人に、「高く買い取ります」と近づく。相談はピークの2017年度に1,699件、2024年度も258件あった。契約した人の約9割が60歳以上で、「子どもに相続の負担をかけたくない」という気持ちにつけこむ(政府広報オンライン、データは国民生活センター)。
二酸化炭素の排出権の例では、「環境への手助けになれば」という思いで契約した人もいた(国民生活センター、2011年)。いいことをしたい気持ちが、入口にされてしまう。
見分け方を、公的な機関の注意からまとめると、こうなる。
今回のニュースから言えることが、もう1つある。「話題の森林ファンドに、個人も1口から参加できます」と誘われたら、それ自体を疑っていいかもしれない。プロ向けのファンドの多くは、一般の個人には売れない仕組みだからだ。アドバンテッジパートナーズ自身も、会社の名前をかたった投資の勧誘に、注意を呼びかけている。
わたし自身は、だまされないために、次の3つをルールとして決めている。
くわしくは、こちらの記事にまとめている。
5. わたしたちは、もう森とつながっている
ファンドは買えない。でも、わたしたちは、もう森にお金を出している。
いちばん身近なのは、森林環境税だ。集めたお金は「森林環境譲与税」として、市町村と都道府県に配られ、間伐などの森の手入れに使われる。配るほうは、税を集める前の2019年度から、地方公共団体金融機構(自治体が共同でつくった金融機関)の準備金を使って、先に始まっている。
ただ、まだ使われていない分もある。2019〜2024年度に配られたのは、合計2,629億円。使われたのは1,959億円で、約670億円、約25%が残っている(わたしの計算)。
会計検査院も、使い道をはっきりさせるよう求めている。森の多い町では、担当の職員が足りないという事情もある。
株を通じたつながりもある。米国のウェアーハウザーは、米国に広い森を持つ会社で、S&P500にも入っている。
売上の約7割は、木材製品だ。でも、もうけの大半は、森と土地から出ている。木材製品は、住宅の需要や木材の値段で、もうけが大きく変わる。2025年の木材製品のもうけは、前の年の約4割まで減った。
S&P500に100万円なら、ウェアーハウザーは約213円分。500社の中では436位で、下のほうにいる。真ん中の会社は約660円分、1位のエヌビディアは約7万8,500円分だ(2026年10月16日)。S&P500の中では小さいほうでも、会社としては、売上が約1.1兆円ある、そこそこ大きな会社だ。
わたしが持っているオルカンとS&P500にも、ほんの少し、森が入っている、というわけだ。
6. 北海道の森
わたしの生まれた十勝がある北海道も、森の多い土地だ。
- 森の面積は554万haで、全国の22%。道の土地の71%が森
- 国や自治体の森が72%(全国は43%)
- 道産の木材の自給率は69.9%(2022年度。全国は同じ年に40.6%)
- 主な木は、カラマツやトドマツ。山に立ったままの値段は、マツ類で1m³あたり4,994円と、スギ(4,026円)より高い(2025年3月末)
十勝は、道内の木材の産地でもある。製材とチップの生産は、それぞれ道内の25%をしめる(林野庁の2019年度の資料)。新得町の新しい役場では、キャビネットなどの家具に、町内の国有林のカラマツが使われた。2026年6月には、北海道銀行などが、西十勝森林組合と、森のJ-クレジットをつくるための連携協定を結んでいる。
7. わたしは、どう思う?
日本は、ある意味、めぐまれている。森と水、十勝のような平野。南北に長い国なので、北と南で気候がちがう。四季もある。
そして、そのめぐみは、すべてつながっている。十勝の農業も、土と水と気候のめぐみの上にある。森と川と海も、同じだ。
宮城県気仙沼のカキ漁師、畠山重篤さんは、1989年から、海に注ぐ大川の上流の山で、木を植える活動を続けた。合言葉は「森は海の恋人」。森の栄養が、川を通って海に届き、カキを育てるからだ。
花や緑と、どう共に生きるか。来年は、そのことを考える博覧会が開かれる。2027年3月から9月に、横浜で開かれる国際園芸博覧会(GREEN×EXPO 2027)だ。開催意義には、こう書かれている。
「花や緑との関わりを通じ、自然と共生した持続可能で幸福感が深まる社会の創造を提案、横浜から明日に向けた友好と平和のメッセージを発信します。」
100年以上前に、自然のつながりを、こう書いた人がいる。
we find it hitched to everything else in the universe.
それが宇宙のほかのすべてと
つながっていることに気づく。
アメリカで「国立公園の父」と呼ばれる、ジョン・ミューアの言葉だ。1869年の夏、羊の群れを山へ連れていく仕事に付き添って、シエラネバダの山に入り、木や花、動物をていねいに書きとめた。その記録をもとに、1911年に出した『My First Summer in the Sierra(はじめてのシエラの夏)』の一文だ。自然は、ひとつだけを取り出しては語れない、ということを書いている。
原文の「hitched」は、馬を荷車につなぐときなどに使う言葉で、「ロープでつながれている」というイメージだ。たとえば、1本の木だけを見ようとしても、その木は、根を張る土、雨や川の水、花粉をはこぶ虫、実を食べる鳥と結びついている。ひとつだけを引っぱり出そうとすると、つながったほかのものまで、一緒についてくる。畠山さんの「森は海の恋人」も、同じことを言っている。
森林ファンドがどんなものになるのか、今はわからない部分が多い。それでも、未来へ向けて、森がお金を生み、持続的に保全されていく仕組みになればよいと、漠然とした期待はある。
お金はもちろん大事だ。でも、自然の恵みがなければ、人は生きていけない。
8. まとめ
- 10社を超える企業が、5〜7年で1,000億円くらいを日本の森に投じる、国内初の大型の森林ファンドが、2027年春にもできる
- プロ向けの形で、個人は買えないとみられる。個人向けの森林ファンドは、過去に元本割れした例がある
- 日本の森は、伐りどきの木が多い。ただ、スギの値段はピークの2割以下で、持ち主が小さく、わからない森も多い
- 2026年4月の法改正と、J-クレジットの広がりで、森をまとめてお金を生む道が見えてきた
- 森や環境をうたう勧誘のトラブルは、実際にある。「話題の森林ファンドに個人も参加できる」という誘いがあったら、疑っていいかも
- わたしたちも、森林環境税やオルカンを通じて、もう森とつながっている
- 森林ファンドは、わからない部分がまだ多い。それでも、森がお金を生み、守られていく仕組みになればよいと期待している
・ファンドと海外の森:アドバンテッジパートナーズ(お知らせ)、同(VIII号ファンド)、住友林業(2023年7月)、同(森林ファンド)、New Forests(王子ホールディングス)、Global AgInvesting(双日・EFM)
・個人とファンド:金融庁(適格機関投資家等特例業者)、林野庁「森林等への投資の促進に向けた調査事業 報告書」(2024年3月)
・日本の森:林野庁「令和7年度 森林・林業白書」、林野庁「森林資源の現況」、日本不動産研究所「山林素地及び山元立木価格調」、林野庁「森林経営管理制度と森林環境譲与税」、鹿児島県(森林経営管理法の改正)
・あやしい話:政府広報オンライン(原野商法)、国民生活センター(原野商法の二次被害)、国民生活センター「CO2排出権取引に関する儲け話のトラブル」(2011年9月、山口県サイトに掲載)、鳥取県(山林の権利購入における投資トラブル)
・わたしたちと森:総務省・林野庁(森林環境譲与税の取組状況)、日本経済新聞(会計検査院、2025年12月)、SSGA(SPYの保有銘柄)、SSGA(SPYYの保有銘柄)、ウェアーハウザー(2025年の年次報告書)、同(2025年10〜12月期の決算資料)、同(沿革)
・北海道と十勝:北海道データブック2024(林業)、林野庁 北海道森林管理局(十勝森林計画区)、十勝西部森林管理署東大雪支署、北海道銀行(2026年6月)
・森と海:三井物産環境基金(畠山重篤さん)、2027年国際園芸博覧会協会(開催概要)
・格言:ジョン・ミューア『My First Summer in the Sierra』(1911年)、シエラクラブ
関連記事
新しい記事は X(@harukamuy) でお知らせしています。




