日経225が7,300円から買えるように。でも、分割で変わるのは、数字だけ
ETF(上場投資信託)は、株と同じように取引所で売り買いできる投資信託だ。日経平均(日本の代表的な225社の株価から計算する数字。「日経225」とも呼ぶ)と同じ動きをめざすETFの中で、いちばん大きい「NEXT FUNDS 日経225連動型上場投信(1321)」が、10月7日に1口を100口に分けた。1321は、取引所で使う番号(証券コード)だ。ETFが持っている財産の合計(純資産)は、約18.8兆円ある。
「口」は、ETFを数える単位だ。分割の前は、1口が約7万1,000円で、1口から売り買いしていた。いまは1口が約730円で、売り買いは10口ずつ。最低で約7,300円から買える。
1万円札を、千円札10枚に両替しても、お金は増えない。分割も、それに近い。では、なぜ分割をするのか、疑問に思ったことはないだろうか?
💴「分配金や手数料は、変わるの?」
📉「なぜ今、ETFの分割が続くの?」
結論から言うと、分割で変わるのは、1口の値段の数字と、最低で買える金額だけだ。持っている分の価値も、ETFの中身(日経平均の225社の株)も、手数料も変わらない。株の世界では、東証(東京証券取引所)が何年も前から「1回に買う金額を下げてほしい」と会社に頼んできた。ただ、その頼みは会社の株に向けたもので、ETFに向けた頼みは見当たらなかった。順番に見ていく。
1. 何が起きたの?
まず、1321の分割を並べておく。
1321を運用する野村アセットマネジメントが8月25日に出した開示(投資家に向けたお知らせ)には、分割の理由がこう書かれている。
投資家の利便性、運用状況等を勘案し、変更するものです。
要は、買いやすくするため、ということだ。NISA(投資のもうけに税金がかからない国の制度)や個人の投資家のため、とは書かれていない。
2. 分割で、何が変わって、何が変わらないの?
1つ目と2つ目の疑問。表にすると、こうなる。
1口を持っていた人は、100口を持つことになる。1口の値段は100分の1になるので、持っている分の価値は同じだ。分割したから得をする、ということはない。
気をつけたいのは、「1口あたり」の数字だ。ETFが配るお金(分配金、1321は年1回)も、1口あたりで見ると100分の1になる。野村アセットは、分割にあわせて、基準価額(ETFの中身から計算した1口の値打ち)や分配金を「100口あたり」で表示するように変えた。分割後の100口は、分割前の1口とちょうど同じ大きさなので、「100口あたり」の数字なら、昔の1口の数字とそのまま比べられる。
わたしの持ち株でも、10月1日に4社が分割をした。8月に書いた東京海上は1株を15株に分けていて、わたしの20株は300株になった。ETFの分割も、仕組みは同じだ。
分割のよいところと気をつけたいところを、おさらいしておく。
買いやすくなると、持つ人も増える。東証が、分割した会社199社を調べたところ、半分の会社で、個人の株主の数が44%以上増えていた。ただ、個人が持つ株の割合の増え方は1.3%(20%なら20.3%になる程度)にとどまる。日本の株全体で見ても、同じ形だ。
人数は12年続けて増えていて、10年で1.9倍になった。2025年度は、分割した会社の分だけで、個人の株主が263万人増えている。一方、持っている株の割合は、10年前からずっと16〜17%台だ。2019年度を底に少しずつ戻ってはいるが、金額でいえば、個人は少数派のままだ。
3. なぜ今、ETFの分割が続くの?
3つ目の疑問。同じ8月25日の開示で、野村アセットは、ほかに5本(ETFは「本」と数える)の分割も決めている。
ETFより前から、株の世界では同じ流れが続いていた。
東証は、1回に買う金額(投資単位。この記事でいう「最低で買える金額」)を「50万円未満」にするのが望ましいとしている。2022年10月には、1回に買う金額が50万円以上の会社に、下げるよう頼んだ。2025年4月には、個人の投資家が求める水準として、10万円を示している。
東証によると、2022年10月から2026年6月末までに、のべ762社が株式分割を決めた。それでも、株価の上がり方のほうが速い。2025年3月末から2026年8月末に、日経平均は86%、東証全体のTOPIXは56%上がった。1回に買う金額の真ん中の値(中央値)は15%の上がりで、13万1,075円から15万675円になった。50万円以上の会社の割合は、同じ1年5か月で、むしろ増えている。東証は2026年7月にもう一度会社に頼み、10月1日からは、少ない金額で投資しやすくするための話し合いの場(作業部会)を始めた。
ただ、東証の頼みは会社の株に向けたもので、ETFに向けた頼みは資料に見当たらなかった。ETFの分割は、株の世界で続く「買いやすく」の流れに、運用会社が自分から合わせた形だと思う。
4. わたしの見方
価値とは、あなたが得るもの。
ウォーレン・バフェット(2008年の株主への手紙)
アメリカの投資家ウォーレン・バフェットが、自分の会社の株主に毎年書く手紙の、2008年の一節だ。ずっと前に、師のベンジャミン・グレアムから教わった言葉だとしている。
金融危機で株価が大きく下がった年の手紙で、バフェットは「値段が下がっても気にしない」と書いたあとに、この言葉を続けている。「靴下でも株でも、品質のよいものが値下げされているときに買うのが好きだ」とも。
バフェットがこの言葉を使ったのは、株の値段が大きく下がり、品質のよいものを値下げされた値段で買える場面だった。払うものは小さくなっても、バフェットから見れば、得るものの質は変わっていない。だから、買い時だと言えた。
分割は、そこがちがう。1口の値段は100分の1になったけれど、1口が表す財産の量(持ち分)も100分の1になっている。払うものと得るものが、一緒に小さくなっただけだ。1万円札を千円札10枚に両替したのと同じで、安く見えても、割安になったわけではない。
それでも、最初の一歩が小さくなるのは、これから始めたい人にはうれしいことだと思う。7万円を一度に出すのはためらっても、7,300円なら試しやすい。
5. まとめ
- 日経平均のETFでいちばん大きい1321(純資産は約18.8兆円)が、10月7日に1口を100口に分けた。最低で買える金額は約7万円から約7,300円に
- 変わるのは、1口の値段、口数、1口あたりの分配金。持っている分の価値、中身、信託報酬は変わらない
- 分配金や基準価額は「100口あたり」の表示に変わった。昔の数字と比べるときは単位に注意
- 金、NYダウ、高配当70、JPX日経400、日経レバも、11月から来年3月にかけて分割する
- 東証は株の投資単位を下げるよう会社に頼んできた。ETFへの頼みは見当たらず、運用会社が株の流れに自分から合わせた形
- 始めやすくはなる。でも、安く見えるだけで、割安になったわけではない
・1321の値段・純資産・信託報酬:NEXT FUNDS 1321 銘柄ページ(10月7日時点)、Yahoo Financeの日次の終値(10月2日・7日)
・今年のほかのETFの分割:野村アセットマネジメント(TOPIX 1306)、同(NASDAQ-100 1545)
・分割の効果:大和総研「株式分割は企業に何をもたらすか」(2023年7月26日)、日本取引所グループ「少額投資」の資料(2026年3月、分割に伴う株主数・比率の変化)
・分割で変わらないもの:日本取引所グループ「株式分割による投資単位の引下げ」
・東証の投資単位の取り組み:日本取引所グループ「投資単位の引下げ」、同 要請文(2026年7月28日)、同 別紙1(のべ762社)、同 作業部会の資料(2026年10月1日)
・個人の株主の数と、個人が持つ株の割合:日本取引所グループ「2025年度株式分布状況調査」(2026年7月2日)
・格言:Berkshire Hathaway「2008 Chairman's Letter」(訳はわたし)




