AI株が上がると、関係ない会社が指数から押し出される? TOPIXの『1000社割れ』を調べてみた
2026年7月、日経新聞にこんな記事が出た。「TOPIX、1000社割れか。キオクシアなどAI株高騰、上がる採用ハードル」。
TOPIXに残れる会社が、想定していたより減りそうだという。理由が面白くて、AI関連など大きい株がどんどん値上がりしたせいで、何も変わっていない中小型の会社が「押し出される」 らしい。
自分は何も悪くないのに、まわりが大きくなったせいで弾かれる。なんだそれ、と思ったので調べてみた。先週書いたキオクシアの記事の、ちょうど続きみたいな話でもある。そして最後に、いちばん気になる「わたしの持っている日本高配当株は大丈夫なのか」まで、正直に書く。
1. そもそもTOPIXってなに?
まず言葉から。TOPIX(トピックス) は、日本株の代表的な株価指数のひとつ。
イメージは 「日本株の幕の内弁当」 だ。ニュースでよく聞く日経平均が「選抜225社のお弁当」なのに対して、TOPIXは 約1,700社を詰め込んだ、日本株ほぼ全部入りのお弁当。「日本株全体が今日上がったか下がったか」を見るときの、いちばん標準的なものさしになっている。
そして大事なのは、このお弁当が ただのものさしではない こと。TOPIXの中身とそっくり同じになるように機械的に運用されるお金(インデックスファンドやETF)が、約83兆円 もある(2023年3月末時点。半分以上は日銀が持っているETFだ)。
つまり、お弁当に入れてもらえるかどうかで、巨大なお金が自動的に入ったり出たりする。ここがこの話の核心になる。
2. なぜ1000社割れ? 「社数」ではなく「金額」で締め切られるから
TOPIXはいま、大がかりな見直しの最中だ。「日本株ほぼ全部入り」だったお弁当を、「ちゃんと売り買いされている、実力のある会社」に絞り込もう としている。2026年10月から始まる第2弾の見直しで、現在の約1,700社から 1,000社ほど に絞られる予定だった。
ところが2026年5月時点の試算では、残れるのは 984社。当初の想定(1,100〜1,200社)を大きく下回る「1000社割れ」になりそうだという。
なぜか。ここが今回いちばん面白かったところで、残れる会社は 「1,000社まで」のような社数の枠で決まっているのではない。「金額ベースで全体の97%まで」という締め切りで決まる からだ。
「上位1,000社まで合格」のような人数の枠なら、社数は減らない。でもこの方式だと、大きい会社が急に膨らむほど、少ない社数で97%に届いてしまい、締め切りが早く来る。だから、入れる会社の数そのものが減っていく。
図にすると、こういうことだ(比率はイメージ)。
正確に言うと、基準に使われるのは 「浮動株時価総額」。これも言葉はいかついけど、意味は単純で、「市場で実際に売り買いできる株だけで測った、会社の大きさ」 のこと。創業家や取引先がずっと持っていて動かない株は除いて、「お店の棚に実際に並んでいる分」だけで測る、というイメージだ。
この「会社の大きさ」を、大きい会社から順に足していって、合計の97%に届くまでに数えられれば残留、届いたあとなら除外。そして今、キオクシアをはじめAI関連の大型株が急激に膨らんでいる。上位の株が膨らむほど、少ない社数で97%に届いてしまう。その結果、自分の大きさは変わっていない中小型の会社が、締め切りの外に押し出されていく。これが「1000社割れ」の正体だ。
ちなみに、締め切りに残れるかどうかのボーダーラインは、2025年8月時点の試算で 浮動株時価総額およそ280億円。AI株高が続けば、このラインはさらに上がっていく。
そして、ラインを切り上げている張本人がキオクシアだ。株価の急騰で、TOPIXの中での構成比率が 一気に3倍前後に引き上げられる見通し になり、指数に連動するお金だけで 約3兆円の買い需要 が発生すると報じられた(あまりに巨額なので、2回に分けて組み入れることになったほど)。大きい株には自動でお金が流れ込み、押し出された株からは自動でお金が抜けていく。
3. 押し出されると、何が起きるのか
ここからが、投資家として知っておきたい部分。TOPIXから外れると何が起きるのか。
さっき書いたとおり、TOPIXには約83兆円の運用マネーがついている。このお金は、TOPIXの中身とそっくり同じになるように、機械的に株を買っている。だから、ある会社がTOPIXから外れると、良い会社かどうかに関係なく、その会社の株も同じように手放していく。
ざっくり試算すると、構成銘柄それぞれの 浮動株のおよそ1割 を、この機械的なお金が持っている計算になる。指数から外れるということは、この1割ぶんの株が、淡々と売られていく ということだ。
ただし、ある日突然ぜんぶ売られるわけではない。市場への影響をやわらげるために、2026年10月から四半期ごとに12.5%ずつ、8回(=2年)に分けて ゆっくり減らしていく設計になっている。
じゃあ「ゆっくりだから大丈夫」なのかというと、そうでもない。実は今回の見直しには第1弾(2022〜2025年)があって、そこで 423社 がすでに除外されている。その実績データがなかなかシビアだった。
最後の1行には、ハッとさせられた。除外で安くなった株を「お、割安かも」と拾っているのは、データで見るかぎり個人投資家だ。それ自体が悪いわけではない。ただ、「この株には2028年まで機械的な売りが続く」という向かい風を知ったうえで買うのと、知らずに買うのとでは、ぜんぜん違う と思う。
4. で、わたしの持ち株は大丈夫なの?
いちばん気になっていたところ。結論から言うと、持っているものの種類によって、影響はきれいに3段階に分かれる。
① オルカン・S&P500などのインデックス積立 → ほぼ無関係
「オルカンには日本株も5%くらい入っているけど、大丈夫なの?」と思うかもしれない。結論、今回の入れ替え騒動とは無関係 だ。
オルカンの日本株部分は、TOPIXではなく MSCIという別の会社が独自に選んだ約190銘柄(大型株・中型株のみ)。東証がTOPIXをどう見直しても、オルカンの中身は変わらない。しかも今回押し出されるのは浮動株時価総額300億円前後の小さい会社たちで、そもそもオルカンには最初から入っていない。持っていないものが売られても、影響のしようがない。
日本のTOPIX連動ファンドを積み立てている人も、指数の中身が入れ替わるだけなので、やることは何もない。
② 大型の日本高配当株 → 実質無風
メガバンク・大手商社・通信のような大型の高配当株は、浮動株時価総額がボーダーライン(約280億円)の 数十倍から数百倍 ある。押し出される心配は、現実的にはない。
③ 中小型の株 → ここだけは他人事じゃない
問題はここ。浮動株時価総額が数百億円クラスの中小型株を持っている場合、業績が悪くなくても、ボーダーラインの切り上がりに巻き込まれて除外される可能性がある。判定の基準日は 2026年8月末、結果の公表は10月末。もう来月の話だ。
ここまで書いて、「わたしはインデックスと大型高配当株だから無風だな」と締めるつもりだった。でも念のため、実際に自分の保有銘柄(日本の高配当株を100銘柄ほど持っている)を、ぜんぶ確認してみた。
結果、大半はたしかに②の大型株で無風だった。ただ、ボーダー付近の中小型株が、金額ベースで日本株の約1割ぶん混ざっていた。「無風のはず」と思い込んでいたのに、調べてみたら他人事ではなかったのだ。
じゃあ売るのかというと、売らない。金額で見れば 総資産の2%ほど だし、なにより除外は需給の話であって、除外されたからといって、それだけで配当が減るわけではない(理由は次で書く)。わたしにできるのは、この銘柄たちを買い増すときに「2028年まで機械的な売りが続くかもしれない」と知っておくことと、10月末の公表で答え合わせをすること。それで十分だと思っている。
5. 「除外=ダメな会社」ではない、と知っておく
ここまで書くと「除外される会社はもうおしまい」に聞こえるかもしれない。でも、それは違う。
指数から外れても、その日を境に業績が悪くなるわけでも、配当のルールが変わるわけでもない。除外で変わるのは「指数連動のお金がいるか、いないか」という需給だけ。会社の中身が悪くなったわけではない。
ただし、これも言い切りすぎないでおきたい。除外が配当を減らすわけではないけれど、配当が保証されるわけでもない。減配のリスクは、除外とはまったく別に、業績次第でいつでもある。しかも除外されるような会社は、成長や流動性に課題を抱えていることも多い。だから結局、見るべきは指数に残るかどうかよりも、その会社の稼ぐ力と配当を続ける姿勢の方だ。
それと、知っておきたいのが敗者復活の仕組み。除外が決まった銘柄も、2027年10月の再評価で基準を満たせば、ウエイトの引き下げはそこでストップ する。会社側が浮動株を増やしたり、企業価値を高めたりして踏みとどまれば、残れるのだ。実際この仕組みは、「上場しているだけの会社」に企業価値の向上を迫るためのプレッシャー として設計されている。日本株全体で見れば、健全な圧力だとわたしは思う。
逆の動きもある。今回の見直しから、これまで対象外だった スタンダード市場・グロース市場からも約50銘柄が新たに採用される 見込みだ。押し出される会社がいる一方で、新しく入ってきて自動買いの追い風を受ける会社もいる。一方通行のリストラではなく、新陳代謝ということだ。
6. まとめ
- TOPIXは「日本株の幕の内弁当」。連動する自動運用マネーは 約83兆円。入るか外れるかで、巨大なお金が機械的に動く
- 2026年10月からの見直しで約1,000社に絞られる予定が、984社と「1000社割れ」の見込み(2026年5月時点の試算)
- 原因は、残れる枠が 「社数」ではなく「金額ベースで全体の97%まで」という締め切り で決まるから。キオクシアなどAI株が膨らむほど少ない社数で締め切りに届いてしまい、何も変わっていない中小型株が押し出される
- 除外銘柄は 2年かけて浮動株の約1割ぶんの機械的な売り を受ける。第1弾の実績では、株価はじわじわ市場平均に負け続け、プロの売りの受け皿になったのは個人投資家 だった
- 影響は3段階。インデックス積立はほぼ無関係(オルカンの日本株はMSCIが別基準で選んでいて、押し出される中小型株はそもそも入っていない)、大型株は無風、中小型株だけは他人事じゃない。基準日は2026年8月末、公表は10月末
- 実際に自分の保有銘柄を確認したら、日本株の約1割がボーダー付近だった(総資産の2%ほど)。それでも売らない方針は変えない。除外そのものが配当を減らすわけではないから(減配リスクは除外とは別に、業績次第で常にある)
- ただし 除外=ダメな会社ではない。除外そのもので業績や配当が変わるわけではないし、2027年10月の再評価で復活の道もある
調べてみて思ったのは、これは「怖い話」ではなくて、「自分がどの席に座っているかを、実際に確かめておく話」 だということ。わたしも「無風のはず」と思い込んでいたら、確認してみたら1割は他人事ではなかった。それでも慌てずにいられるのは、仕組みと金額の規模感が分かっていて、除外そのものは配当を減らさないと知っているからだ。思い込みで安心するのと、確かめたうえで安心するのは、ぜんぜん違う。
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