住宅ローンの「手数料ゼロ」は得なの? 目先の負担を軽くすると、あとで重くなる
10月21日の日本経済新聞に、「住宅ローン、ネット銀『目先の負担減』競う」という見出しが載った。PayPay銀行は、住宅ローンの事務手数料をゼロにするという。
わたしは賃貸に住んでいて、住宅ローンは組んでいない。組む予定もない。
わたしの見方としては、目先の負担を減らしたり、長くローンを組んだり、結果的に大きい負担になるものには、手を出してはいけないと思っている。
ただ、日経の記事の中身は読んでいない。手数料ゼロは、本当に損なのか。調べてみた。
1. ネット銀行の「目先の負担減」って?
住宅ローンを借りるときには、利息のほかにも、お金がかかる。そのひとつが事務手数料だ。PayPay銀行は今、借りる額の2.2%を事務手数料として受け取っている。4,000万円を借りれば、88万円になる。
日経によると、PayPay銀行は11月にも、この事務手数料をゼロにする新しいプランを始める。ただ、10月21日の時点で、公式の発表はまだない。金利がどれくらい変わるのかも、わからない。
「目先の負担」を軽くする住宅ローンは、ほかの銀行にもある。
形はいろいろだが、共通するのは、最初や毎月に払うお金を、小さくすることだ。
2. 手数料ゼロは、本当にお得?
手数料ゼロの住宅ローンは、そのかわりに金利が上乗せされることが多い。公式の数字で比べられる、みずほ銀行の2つの型で計算してみた。
手数料ゼロ型は、借りるときの88万円が要らない。でも、金利が年0.2%高いので、毎月の返済が3,872円ふえる。35年かけて返すと、総額は約75万円多くなる。
例えると、88万円の手数料を、分割払いにするのに近い。最初は払わなくていいが、毎月の返済に少しずつ乗ってくる。長く払い続けるほど、もとの88万円より多く払うことになる。35年なら、毎月の差3,872円が420回で、約163万円。払わずにすんだ88万円を差し引いても、約75万円多い、というわけだ。
ただ、早く返し終える人には、手数料ゼロ型のほうが得になる。みずほ銀行も、自分のページでそう試算している。
住み替えや繰り上げ返済(予定より早く、まとめて返すこと)で、13年前後までに返し終えるなら、手数料ゼロ型が得。分かれ目は、金利の上乗せの幅で変わる。ソニー銀行の2つの型(金利の差は年0.36%)で同じように計算すると、分かれ目は6〜7年まで短くなる(わたしの計算)。
3. 長く借りると、総額はどうなる?
目先の負担を軽くする、もうひとつの方法が、長く借りることだ。最近は、50年で借りられる銀行が増えている。
4,000万円を50年で借りると、毎月の返済は、35年より約2万1,000円軽くなる。でも、返す総額は約900万円ふえる。35年より長く借りると金利が上乗せされるうえに、利息を払う期間も長くなるからだ。
借金の減り方も、ゆっくりになる。
30歳で借りて60歳になっても、50年ローンなら、借りた額の半分以上が残っている。国土交通省の資料は、住み替えが難しくなることや、収入が減る時期と返済が重なることにも、注意をうながしている。
変動金利(世の中の金利に合わせて見直される金利)で借りた場合の、「5年ルール」「125%ルール」も、目先を軽くする仕組みのひとつだ。金利が上がっても、毎月の返済額は5年間変えず、見直すときも、前の返済額の1.25倍までにする。毎月の返済は、いきなり重くはならない。でも、本来ふえるはずだった分が、なくなるわけではない。国土交通省の資料によると、あとの返済に先送りされる。PayPay銀行とソニー銀行は、このルールを取り扱っていない。その場合は、半年ごとの金利の見直しのたびに、返済額もそのまま変わる。
4. 「金利のある世界」で、なぜ銀行は住宅ローンを競うの?
日本銀行は、9月18日に政策金利を1.25%に上げた。住宅ローンの金利も上がっている。PayPay銀行の変動金利のもとになる「基準金利」は、今年は4月・7月・10月の3回上がり、2.680%から3.530%になった。
例えると、ガソリンスタンドの店頭価格と、会員の値引きに近い。店頭価格は、原油の値段に合わせて上がったり下がったりする。会員の値引きは「いつでも1リットル5円引き」のように、最初に決まったまま変わらない。だから、店頭価格が上がれば、値引きのあとに払う値段も上がる、というわけだ。
金利のある世界では、預金を集めて貸し出せば、銀行のもうけが出やすくなる。だから、銀行どうしは預金の取り合いをしている。PayPay銀行は、11月から普通預金の金利を、最大で年0.8%相当に上げる。
住宅ローンは、その入口になる。
住宅ローンは、金利を大きく割り引いて貸すので、それだけでは銀行のもうけは大きくない。それでも、借りた人と数十年のつきあいができる。給料の振り込み、預金、カード。住宅ローンをきっかけに、取引をまとめてもらえる。信用金庫の研究所のレポートも、住宅ローンを、給料の口座を取る道具として見直す動きがある、と説明している。
借りる側の多くは、変動金利を選んでいる。住宅金融支援機構の調査(2026年1月)では、変動金利を選んだ人が75.0%。変動型や固定期間選択型で借りた人に聞くと、金利が上がったら返済がどれくらいふえるかについて、自分が理解できているか少し自信がない、よく理解していない、全く理解していない、と答えた人は、合わせて52.0%いた。
5. わたしは、どう思う?
わたしが見ているのは、結局トータルでいくらなの?ということだ。
みずほ銀行の例で計算した手数料ゼロ型は、毎月の差が3,872円。でも、35年、420回払い続けると、総額は約75万円多くなる。50年ローンは、毎月が約2万1,000円軽い。それでも、総額は約900万円ふえる。目先の数字は小さくても、全部を足すと、大きな金額になる。
返す時の閻魔顔
お金を借りるときは、地蔵のようににこやかな顔をする。でも、返すときには、閻魔のような渋い顔になる。お金の貸し借りでの、人の心の動きを言い当てた、昔からのことわざだ。目先の負担を軽くするローンは、借りるときの顔を、もっとにこやかにしてくれる。でも、そのぶん返す総額がふえ、閻魔の顔でいる時間が長くなる。
手数料ゼロのプランも、50年ローンも、わたしは使わないし、すすめることもしない。
計算してみると、手数料ゼロ型は、早く返し終える人には得になる。ただ、2章で例に出した損得の分かれ目は、13年前後だ。13年で返す計画を立てるなら、月々の返済額は当然高くなる(4,000万円なら、35年で毎月約12万2,000円のところ、13年では約28万2,000円)。人生、何が起こるかわからない。それが10年をこえる話になると、なおさらだ。自分は不死身ではない。当然、病気になることもあれば、落ち込むこともある。そんなとき、閻魔の顔で返済を渋っても、銀行は許してくれない。最悪の場合、家は差し押さえられて売られ、借金だけが残ることもある。だから、もし長期でローンなどを組むなら、さまざまなリスクを想定して、より慎重に、余裕をもって、無理のない計画を立てたい。
6. まとめ
- ネット銀行が、住宅ローンの「目先の負担」を軽くする商品を広げている。PayPay銀行は、事務手数料ゼロの新しいプランを11月にも始めるという
- 手数料ゼロの型は、金利が上乗せされることが多い。早く返せば得、長く借りるほど総額は大きくなる
- みずほ銀行の例の金利で計算すると、4,000万円を35年で返す場合、手数料ゼロ型のほうが総額で約75万円多い
- 50年で借りると、毎月は軽くなるが、総額は35年より約900万円ふえ、30年たっても借金が半分以上残る
- 金利のある世界で、銀行は預金と給料の振り込みを取り合っている。住宅ローンは、その入口だ
- わたしは賃貸で、住宅ローンは組んでいないし、組む予定もない
- わたしは、目先の負担を減らしたり、長くローンを組んだり、結果的に大きい負担になるものには、手を出してはいけないと思っている
・各行の住宅ローン:PayPay銀行(商品の内容)、同(金利)、同(50年ローン)、同(基準金利の変更:4月)、同(7月)、同(10月)、みずほ銀行(借入時負担ゼロ型)、ソニー銀行(金利)、同(5年ルール・125%ルール)、楽天銀行、三菱UFJ銀行、三井住友銀行
・金利と注意点:日本銀行(2026年9月18日)、国土交通省「住宅ローンの常識が変わる!?」、住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査」
・銀行が競う理由:信金中央金庫 地域・中小企業研究所(2025年2月)、同(2026年1月)、PayPay銀行(普通預金金利、2026年9月18日)
・格言:ことわざ「借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔」(ことわざを知る辞典)
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