IMFの報告書を読んでみた。AIのお金は、ぐるぐる回る?!
TBS CROSS DIG with Bloomberg の番組(10月30日配信)で、IMF(国際通貨基金)の報告書が紹介されていた。取り上げていたのは、AIのリスクの話だ。
そのとき、まず思ったのは、AIのことより、「そんなに、みんなが指標にしている資料があるんだ」ということだった。世界中の金融の担当者や、市場の人たちが目を通す報告書。どんなことが書いてあるのか、気になった。
ただ、相手は分厚い英語の資料だ。わたしには、とても読めない。でも、わたしには、クロちゃんがいる。
1. IMFの報告書って、何?
IMFは、世界の国々がお金を出し合ってつくっている、国際的な機関だ。お金に困った国を助けたり、世界の経済を見張ったりしている。
そのIMFが、年に2回、4月と10月に出しているのが「国際金融安定性報告書」という報告書だ。英語では Global Financial Stability Report、略して GFSR と呼ばれる。世界のお金の流れに、どこか危ないところがないかを調べた、いわば健康診断のようなものだ。
同じ時期に、世界の経済の見通しをまとめた「世界経済見通し(WEO)」も出る。番組で紹介されていたのは、この2つだった。
最新版は、10月13日に出た。全体のまとめは、こうだ。
市場は、ここまで崩れずにきた。理由は、景気が持ちこたえ、会社の利益、とくにAIにかかわる会社の利益が強かったことだ。でも、そのあいだに、危うさは増えている。
そして、相場が大きく荒れるきっかけになりうるものとして、3つを挙げている。AI関連の株が大きく下がること、国債の金利の急上昇、サイバー攻撃だ。この記事では、番組でも取り上げていた、AIの話を読んでいく。
2. AIの何を心配しているの?
まず、報告書は、AIを悪者にはしていない。AIへの投資は、いまの世界の景気を支える役になっていて、中東の戦争や政策の不安定さによる悪い影響を打ち消してきた、と書いている。AIの中心にいる会社の株価と利益は大きく伸びたけれど、将来の利益と比べた株価の高さは、いくつかの市場で少し落ち着いてきた、ともある。
そのうえで、いちばん具体的に書かれていたのが、お金の回り方だ。
報告書は、2023年からあとに公表された、AIの会社どうしの大きな取引14件を調べている。大手のクラウドの会社が、財務がまだ弱いAIの会社に、合わせて約3,000億ドルを出資した。そこに、約6,500億ドルの借金が組み合わさっている。引き換えに結ばれたのが、約1.4兆ドルにのぼる「将来の売上の約束」だ。
出資を受けたAIの会社は、そのお金で、出資してくれたクラウドの会社の設備を使う。使う約束は、クラウドの会社にとっては将来の売上になる。お金が、出資した側に戻ってくる形だ。
借金6,500億ドルのうち、約3,200億ドルは、出資を受けたAIの会社の側が負っている。その中には、出資した側が保証している借金や、決算書にのらない形の借金もあるという。
例えると、パン屋さんとカフェの話に近い。
パン屋さんが、カフェを開く友だちに100万円を出してあげる。友だちはそのお金で、「これから5年で、パン屋さんのパンを500万円ぶん仕入れる」と約束する。お店を開くのに足りない分は銀行から借りていて、その一部は、パン屋さんが保証人になっている。
パン屋さんから見ると、出したお金はパンの代金として戻ってくるし、帳簿には5年ぶんの売上の見込みが載る。うまくいっているように見える。
ところが、カフェにお客さんが思ったほど来なかったら、どうなるか。友だちはパンの仕入れを減らし、銀行への返済も苦しくなる。パン屋さんは、出した100万円が戻らず、500万円の売上の見込みも消え、保証人として借金の肩代わりを求められるかもしれない。友だち1人のつまずきで、3つが一緒に崩れる。
100万円と500万円は、IMFが調べた14件の出資(約3,000億ドル)と売上の約束(約1.4兆ドル)を小さくした、だいたいの割合だ。実際の取引では、パン屋さんにあたるのが大手のクラウドの会社、カフェにあたるのがAIの会社になる。報告書が心配しているのも、この連鎖だ。
もう1つ、報告書は、借金と「てこ」が増えていることも挙げている。てこ(レバレッジ)とは、借りたお金を足して、手元のお金より大きく賭けることだ。
世界で新しく発行された、信用度の高い会社の社債のうち、大手のクラウドの会社の分は、2024年末には0.5%だった。それが、2026年には9.5%、ほぼ1割になっている。AIの設備をつくるお金を、借金で集めているからだ。
お金を借りて株に賭ける動きも増えている。値動きを何倍にもする商品(レバレッジETF)のうち、1つの銘柄だけを対象にした個別株型の割合は、16.1%から28.4%になった。
3. もし崩れたら?
では、AIの株が崩れたら、どうなるのか。
実は、株がどれだけ下がるかという数字は、報告書には書いていない。紹介しているのは、同じIMFの「世界経済見通し」の試算だ。AIへの投資が一気に縮むと、そうならなかった場合と比べて、2028年までに、世界の経済の大きさが最大0.4%、投資が1.3%、消費が0.6%下がる、という。
いちばん影響を受けやすいのは、AI関連の株と一緒に大きく動きやすい、アジアの先進国の株式市場だという。本文には国の名前は書いていないけれど、グラフのデータには、国ごとの数字が載っていた。
この数字は、世界のAIの株がまとめて動いたとき、その国の株がどれくらい一緒に動きやすいかを表している。たとえば、AIの株全体が10%下がったとき、韓国の株は9%ほど一緒に下がりやすい、という目安だ。
2026年でいちばん高いのは、韓国。台湾、アメリカと続いて、日本は0.32。番組のタイトルにあった「日本は韓国・台湾の次」は、アジアの中での、この並びのことだ。
もう1つ、日本にかかわる数字があった。日本が海外の株や債券に投資しているお金のうち、アメリカの株の割合は、2022年6月の14%から、2026年6月には28%と、ほぼ倍になっている。報告書は、こうして多くの国がアメリカの株を増やしてきたので、AIとの直接のつながりが薄い国にも、影響が広がりうる、としている。
IMFは、世界の銀行が大きな揺れに耐えられるかの点検もしている。わざと厳しい場面を想定して、銀行の体力がどれだけ削られるかを計算する、いわば「もしもの点検」だ。
今回は、その厳しい場面に、AIの話が入っている。「AIで仕事の効率が上がる、という期待がしぼみ、テックの会社の株が一気に下がる」という場面だ。
結果は、世界の銀行全体では持ちこたえる。ただ、その場面で「体力が弱い」と判定された銀行は、前回(2025年)より増えている。世界の銀行が持つ資産全体のうち、そうした銀行の分は、18%から22%になった。22%のお金がなくなる、という意味ではない。損に耐える体力が弱い銀行が、世界の銀行の2割あまりを占める、ということだ。
例えると、大きな台風を想定した町の点検で、町全体は持ちこたえるけれど、屋根や窓の耐久性が心配な家が全体の2割以上ある、というイメージに近い。
4. わたしの持ち物では、どこに当たる?
ここまで読んで、自分の持ち物に当てはめてみた。2026年9月末の資産を、AIの株が崩れたときにどう動きそうかで、色分けしてみる。
こうして並べると、わたしの資産の3分の2近くは、AIの株が崩れたら、まず一緒に下がる側にある。
5. わたしの見方
AIは、もう、わたしの仕事にも暮らしにも欠かせない。だからこそ、AIにお金が集まる理由はわかる。
一方で、10月にAIの会社の借金を調べたとき、わたしは「開発費や設備投資がふくらんで、チキンレースのようになっているんじゃないか」と感じていた。世界のお金を見張っているIMFは、お金の回り方と借金の増え方を気にしている。
どの会社が勝つかは、わからない。だから、オルカンとS&P500で、まとめて持っている。崩れる日が来ても、借金をしていなければ、待つことができる。
アインシュタインは、1952年、自分の伝記を書いていたカール・ゼーリッヒへの手紙に、こう書いている。
ただ、ものすごく好奇心が強いだけです。
アルベルト・アインシュタイン カール・ゼーリッヒへの手紙(1952年3月11日)
ゼーリッヒは、アインシュタインの才能がどこから来たのかを知りたがっていた。家族から受け継いだものなのか、と。その問いへの答えが、これだった。才能ではなく、知りたいと思う気持ちが自分を動かしてきた、という意味だ。
わたしには、英語の分厚い報告書を読む力はない。でも、いまは、クロちゃんがいる。
これからも、気になったことは、調べてみる。ただ、やることはきっと変わらない、オルカンとS&P500を淡々と積み立て続けていくだけだ。
6. まとめ
- IMFが年2回出す「国際金融安定性報告書」は、世界のお金の健康診断。10月13日に最新版が出た
- 市場は崩れずにきたが、危うさは増えている。きっかけになりうるのは、AI関連の株の下落・国債の金利の急上昇・サイバー攻撃
- AIの会社どうしの14件の取引で、出資約3,000億ドルと借金約6,500億ドルが、約1.4兆ドルの売上の約束と結びついている
- 新しく発行される信用度の高い社債の約1割が、クラウド大手の分に。借金と「てこ」が増えている
- 影響を受けやすいのは、アジアの先進国の株式市場。データでは韓国がいちばんで、日本はアジアで韓国・台湾の次
- わたしの資産の3分の2近くは、AIの株が崩れたら、まず下がる側。それでも借金をして賭けてはいないので、オルカンとS&P500を淡々と続ける
・番組:TBS CROSS DIG with Bloomberg「AI相場の逆回転リスク:日本は韓国・台湾の次に“脆弱”」(2026年10月30日)
・グラフのデータ:IMF 第1章のデータ(図1.2・図1.3・図1.7)
・IMFブログ「Global Financial Markets Face Rising Risks From AI, Bond Yields, and Cyberattacks」(2026年10月13日)
・IMF「World Economic Outlook, October 2026」
・オルカン・S&P500の中身:三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim」の月報(2026年9月30日時点)、iSharesのETF(ACWI、IVV)の保有銘柄一覧
・BNDの中身:バンガード BND
・格言:The Open University(アインシュタインのカール・ゼーリッヒへの手紙、1952年3月11日)(訳はわたし)
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