年金のESG投資が減っている。ESGの点数は何を測っているのか、調べてみた
わたしたちの年金を運用しているGPIFが、ESG指数への投資を減らしている。国内株式に占める割合を、2025年3月末の15.9%から、5月末までに約13%へ。金額でいうと2ヶ月で約9.8兆円から約8.4兆円になった計算だ。
ESG投資といえば、この10年ずっと「これからの投資」として語られてきた。それを世界最大級の年金基金が減らしている。何が起きているんだろう。
じつはわたしは、ESGという言葉に前から少し引っかかっていた。環境や人を大事にしない会社に、長い目で見た未来はないとは思う。そこは疑っていない。でも、それを点数にして評価するという部分が、どうも腑に落ちなかった。
今回のニュースをきっかけに、改めて整理して考えてみた。
1. そもそも、年金のどれくらいがESGなのか
まず前提から。GPIFは自分で選んだESG指数に連動する形で運用している。MSCI・FTSE・S&Pなどがつくった指数を複数採用していて、日本株の一部をその比率に合わせて持っている、という形だ。
年金の全部がESGで動いているわけではない。全体では7%ほどだ。ただ日本株に限ると、いちばん多いときで6分の1近くがESGの物差しで銘柄と比率を決めていたことになる。ここは、思っていたより大きかった。
そしてGPIFはこれを、2ヶ月という短い期間で1兆円を超える規模で減らした。理由についてGPIFは「ESG指数投資額の最適化」と説明している。ただ大和総研は「何をもって適正と判断しているのかは明らかになっていない」と、説明の不足を指摘している。
2. ESGの点数は、誰がつけているのか
ここで、点数をつけている側の話に移る。
ESG指数を作っているのは、MSCIやS&Pグローバルといった民間の会社だ。2026年5月に、GPIFと経団連がこの2社を招いて意見交換をしていて、その議事録が公開されている。読んでみると、企業側からかなり率直な質問が出ていた。
評価される側が、評価する側にそれ、本当に測れているんですかと聞いている。この構図が、わたしには興味深かった。
なお、S&Pグローバルは企業との対話について、日本だけで年間約2,000件のメール対応と約500件のミーティングを行っていると答えている。評価する側にも、される側にも、それだけの手間がかかっているということだ。
そのうえでS&Pは、自分たちの役割をこう説明している。ESG評価を指数の比率に反映することで、ESGに取り組む企業へお金が流れる仕組みをつくること。ここは、わたしも意義があると思う。問題は、その「取り組み」を測る物差しのほうにある。
3. 物差しの問題①。評価機関によって答えが違う
ここから、わたしが引っかかっていた部分に入っていく。
議事録のなかに、こういうやりとりがあった。年金側が「評価機関どうしで情報交換や連携をする枠組みはあるのか」と質問したのに対し、MSCIの答えはこうだった。
現時点で他の評価機関やインデックスプロバイダーとの間で、定期的な情報交換や連携を行う正式な枠組みは設けていない
つまり各社がそれぞれの基準で、バラバラに点をつけている。実際どれくらい違うのか、調べたら研究があった。
信用格付けは0.99。ムーディーズが「この会社は安全」と言えば、S&Pもほぼ同じことを言う。財務の数字という共通の土台があるからだ。
ところがESGは0.61。同じ会社なのに、A社では高評価、B社では平凡、ということが起こる。研究者はこの状態を「Aggregate Confusion(集計された混乱)」と呼んでいる。
4. 物差しの問題②。開示にお金をかけられる会社が有利になる
もうひとつ、これは調べる前からうすうす感じていたことだった。大きい会社ほど、ESGの点数が高いのではないか。
これも研究で指摘されていて、企業規模バイアスと呼ばれている。規模の大きい企業ほどESG評価が高くなる傾向があり、理由のひとつは大企業ほど開示にかけられる人とお金を持っているからだという。
MSCIも議事録のなかで、評価は公開情報をもとに行っていると説明している。有価証券報告書、IR資料、サステナビリティレポート。つまり丁寧に書いて出せる会社ほど、点数が上がりやすいということになる。
サステナビリティの専任部署を置いて、質問票にも取材にもきちんと答えられる会社と、そこに人を割けない会社。環境や人への配慮が同じでも、点数は変わってしまう。
これはズルをしているという話ではない。外から見える情報でしか測れないという、仕組み上の限界だ。
5. 物差しの問題③。測ると、それが目的になる
そして、いちばん大事だと思うのがこれだ。
議事録で企業側が言っていた「開示が目的化し、企業固有の価値創造や競争力との関係が見えにくくなる」という懸念。ここが、わたしのいちばん引っかかっていたところだ。
ある指標が目標になると、その指標は良い指標ではなくなる。これは「グッドハートの法則」と呼ばれていて、教育でも医療でも起きる、よく知られた現象だ。
測ること自体が悪いわけではない。測らなければ比べられないし、比べられなければ改善もしにくい。ただ測った瞬間から、点数を取ることが目的にすり替わっていく力が働く。それがESGの世界でも起きているのだと思う。
6. GPIF自身の検証も、歯切れがよくない
では、ESG指数への投資は成果を出したのか。GPIFは2026年3月に「ESG指数投資効果検証結果」を公表している。2017年から採用している3つの指数を対象にした検証だ。
内容をざっくり言うと、こうだった。
- 指数に組み入れられる時期に向けて、企業のESG評価は有意に改善した
- ただし組み入れられた後も改善が続くかは、指数によって差がある
つまり「指数に入るために、企業はがんばる」ことは確認できた。これはこれで、制度としては機能している。
ただしこの検証で見ているのは企業の行動が変わったかどうかであって、「それで運用成績が良くなったのか」には踏み込んでいない。大和総研はこの報告に「違和感」を表明し、GPIFの情報開示が抑制的で「より丁寧な説明と積極的な情報発信を期待したい」と書いている。
そして時系列でいうと、この検証結果が出るより前に、GPIFはすでにESG指数投資を減らしていた。
なおGPIFは、ESGそのものをやめるつもりではなさそうだ。5月のラウンドテーブルでは、いま「ESGファンド投資」を検討していると話している。指数で機械的に選ぶ形から、運用会社に目標を設定させて中身を見る形へ。やめるというより、やり方を変えようとしているように見える。
7. あずきの考え。ESGは大事。でも点数は別もの
ここまでをふまえて、自分の考えをまとめておきたい。
ESGを軽んじる会社に、長い目で見た未来はないと思う。環境を汚し続ける会社はいつか規制で止められるし、人を使いつぶす会社には人が来なくなる。ガバナンスが緩ければ不祥事で価値が吹き飛ぶ。ここは理屈としても自然だと思う。
でも、それと「ESGスコアが高い会社を選べば、投資としてうまくいく」は、まったく別の話だった。
だからわたしは、ESG指数を選ばない。オルカンで市場全体を持つという形にしている。
理由のひとつは、基準がはっきりしていることだ。ESGの点数は、誰がどんな項目でつけているのかが外から見えにくい。評価の項目は毎年見直されるし、会社によって答えも違う。それに比べてオルカンの基準は、その会社が市場でどれだけ大きいか。それだけだ。良い会社かどうかを誰も判断していないぶん、よっぽどシンプルで、自分にも仕組みが理解できる。
わたしは、中身がわからないものにお金を置いておくのが苦手だ。ESG指数は、良いことをしようとしている点は信じられても、点のつけ方までは信じきれなかった。
これは「ESGなんて意味がない」ということではない。意味はあると思うけれど、いまの点数のつけ方では、それをうまく拾えている自信がないということだ。市場全体を持てば、ESGを本当に大事にして伸びた会社も、そのまま自分の資産に入ってくる。点数を経由しなくても。
もちろん、市場全体を持つということは、ESGを軽んじている会社も一緒に持つということでもある。そこは受け入れている。ただ、ESGを軽んじることが本当に長期のリスクなら、いつかその会社は市場のなかで小さくなっていくはずだ。比率が下がれば、わたしの持ち分も自動的に減る。点数で先回りして選ぶかわりに、結果が出るのを待つ形だ。時間はかかるけれど、こちらのほうが自分には納得しやすかった。
GPIFが指数から離れて「ESGファンド投資」を検討しはじめているのも、同じところで迷った結果なのかもしれない。ただ、なぜ2ヶ月で1兆円超を動かしたのかは、まだ説明されていない。これから何を語るのかは見ておきたいと思っている。わたしたちの年金の話なので。
まとめ
- GPIFは国内株式のESG指数投資を、2025年3月末の15.9%から5月末までに約13%へ削減。金額では2ヶ月で約9.8兆円→約8.4兆円。理由は「最適化」とされるが、判断の基準は示されていない
- ESG指数に連動する運用は約17.8兆円で、GPIF全体の約7%。年金の全部がESGで動いているわけではないが、日本株では一時6分の1近くを占めていた
- 点数をつけているのはMSCIやS&Pといった民間企業。2026年5月の経団連・GPIFの意見交換では、企業側から「開示が目的化する」「負担が大きい」という声が出ている
- 物差しの問題①: 評価機関どうしの相関は0.61。信用格付けの0.99と比べて低く、同じ会社でも評価が割れる。連携する枠組みもない
- 物差しの問題②: 大きい会社ほど点数が高くなりやすい(企業規模バイアス)。評価は公開情報をもとに行われるため、開示に人とお金を割ける会社が有利になる
- 物差しの問題③: 測ると、点数を取ること自体が目的になる(グッドハートの法則)
- GPIFの効果検証(2026年3月)は「指数に入る時期に向けて企業のESG評価は改善した」としつつ、見ているのは企業の行動の変化で、運用成績への効果には踏み込んでいない。GPIFはいま指数に代わる「ESGファンド投資」を検討中で、やめるというよりやり方を変えようとしている
- わたしの結論は、ESGは大事。でも「ESGを大事にしている会社」と「ESGスコアが高い会社」は別もの。だから点数を経由せず、市場全体を持つ形にしている。オルカンの基準は「市場でどれだけ大きいか」だけで、ESGの点数よりよっぽどシンプル。ESGを軽んじる会社も一緒に持つことになるが、それが本当にリスクなら比率は自然に下がっていく
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