日銀「物価は2%に届いた」。それでも、利上げしなかったのはなぜ?
10月30日のお昼、日銀が金融政策決定会合の結果を出した。政策金利(日銀が決める、お金の貸し借りの土台になる金利)は1.25%のまま。据え置きだ。
ここまでは予想どおり。でも、日銀の発表文を読んでみると、物価の地力が、2%の目標に届いた、という判断が入っていた。物価の地力とは、野菜やガソリンのような一時的な値動きをならした、ふだんの物価の伸びのことだ。日経新聞は、2013年に2%の目標を決めてから、13年での到達だと伝えている。
届いたのに、なぜ上げないのか。同じ日には、日銀が持っている株のETF(株をまとめて買える投資信託)を売るペースを上げることも決まった。
1. 何が決まったの?
日銀は、年8回、金利を決める会合を開いている。決めるのは、総裁・副総裁と審議委員の9人だ。今回は10月29日と30日の2日間で、結果は30日の12時2分に出た。
いちばん大事なのは、物価の地力(日銀の言葉では、基調的な物価上昇率)についての書き方だ。これが、2%の目標と「概ね整合的な水準」になった、と日銀は書いた。2%とほぼ合っている、という意味だ。
ふだん目にする消費者物価(生鮮食品を除く)も、いま、前の年より2%程度の上昇だ。日銀が年4回出す景気と物価の見通し(展望レポート)を見ると、消費者物価の伸びは、原油高などで、2026年度と2027年度は2.5〜2.6%と、2%をはっきり上回る。そのあと、2028年度には2%程度に落ち着く見通しだ。
もう1つ、気をつけることが変わった。これまでの日銀は、物価が2%に届かず、下がってしまうことに気をつけていた。今回は、2%を超えて上がりすぎていくリスクに気をつける、と書いている。日銀自身も「局面が変化しており」と書いた。
2. 届いたのに、なぜ上げないの?
物価が目標に届いたなら、そろそろ金利を上げるのでは、と思うかもしれない。今回は、上げなかった。
理由について、総裁は会見で、経済や物価をめぐるリスクや、金融環境(お金の借りやすさ)の動きを「もう少し見ていく必要がある」と判断した、と話した。9月に1.25%へ上げたばかりでもある。
もう1つ、「届いた」と「達成した」は別の話だ。総裁は、2%が持続的・安定的に実現するところには「まだ至っていない」と話した。届いたばかりの2%を、定着させていく段階だという見方だ。
例えると、車の運転に近い。日銀は、景気を後押しするために、まだ少しアクセルを踏んでいる。いまの金利は、物価の上がり方に比べると低く、お金を借りやすいからだ。目的地の2%に着いたので、少しずつアクセルから足を離していく。ただ、一度に離すと、車ががくんと揺れる。だから、9月に少し離したあとは、揺れ具合を見ている。
ただし、9人全員が同じ考えではない。高田委員は、2%に届いたのだから利上げのペースを速める新しい局面に入ったとして、1.5%への利上げを提案した。
3. 次の利上げは、いつ?
日銀は、利上げを続ける方針を変えていない。展望レポートには、「引き続き政策金利を引き上げ」ていくと書いてある。
時期については、総裁は「次回会合を含め毎回の決定会合で」、見通しが実現する確かさやリスクを点検して判断していく、と話した。12月にやるとも、やらないとも言っていない。
次の会合は12月17日と18日、その次は2027年1月21日と22日だ。市場の金利の動きから計算すると、12月に利上げすると見る割合は、会合1日目の10月29日夕方の時点で、7割台半ばだった(為替会社OANDAのまとめ)。
4. 日銀が、株を売るペースを上げる
同じ日に、もう1つ大事な決定があった。日銀が持っている、株のETF(株をまとめて買える投資信託)を売るペースだ。
日銀は、景気を支えるために、2010年から長いあいだETFを買ってきた。いまは、それを少しずつ売っている。
2026年1月から売りはじめて、市場に大きな影響は出ていない。総裁の会見での説明はこうだ。今年は株価が2割ほど上がり、売り買いの量も大きく増えている。売り買いが増えると、同じ額を売っても、全体に占める割合は小さくなる。実際、夏にかけては、当初の目安の0.05%をかなり下回っていた。そこで、売り買い全体の0.1%ほど、43年くらいのペースなら、市場への影響も限られる、と判断した。
買ったときの値段で年8,600億円、売るときの値段で年2兆4,600億円ほどと聞くと、大きく見える。でも、1年の株の売り買い全体の0.1%ほどだ。
この日、日経平均は1,369円下がった。ただ、下げのほとんどは、日銀の発表の前に起きている。午前の取引の終わりに、すでに1,640円下がっていた。アメリカのハイテク企業の決算をきっかけに、AIや半導体の株が売られたためだ。発表のあとは、むしろ下げ幅を縮めている。日経新聞も、市場では「倍速でも吸収可能」と冷静に見る人が多い、と伝えている。
日銀が売るのはETFだ。ただ、ETFの中には、わたしが持っている日本の高配当株も入っている。間接的に、少しずつ売りが出ることになる。
5. わたしは、どう思う?
わたしが物価を感じるのは、スーパーで食べ物を買うときくらいだ。それでも、「これ、こんなにしたかなぁ」と思うことが、しょっちゅうある。
だから、消費者の目線で見ると、実際に2%以上上がっている実感がある。数字で見ても、9月の消費者物価では、生鮮食品を除く食べ物(パンや調味料、お総菜など)が、前の年より2.9%上がっている。物価全体の2.1%より、高い伸びだ。ブログでも、そう書いてきた。
ただ、日銀は、いろいろなデータを見て判断している。今回の据え置きも、予想どおりだ。9月に上げて、今回は1回あける。次は12月、もしくは1月なのかなぁ、と素人ながら思う。ソフトランディング、つまり、景気への影響を最小限におさえて、ゆっくり動きながら、そのつど考えていくやり方だ。
ローマの最初の皇帝アウグストゥスが、よく口にした言葉だ。歴史家のスエトニウスによると、アウグストゥスは、指揮をとる人に、あせりと無謀ほど似合わないものはない、と考えていた。急いで進むことは大事だ。でも、あわてて走れば転ぶ。だから、ゆっくり急げ。
いまの日銀は、まさにそんな進み方に見える。2%に届いても、一度に金利を上げない。株も、43年かけて少しずつ売る。わたしも、ニュースの見出しにあわてずに、元の発表を確かめながら見ていきたい。
6. まとめ
- 10月30日、日銀は政策金利を1.25%のまま据え置いた。9人のうち1人は、1.5%への利上げを提案した
- 物価の地力が、2%の目標と「概ね整合的な水準」になったと、日銀が書いた
- ただ、総裁は、2%が持続的・安定的に実現するところには「まだ至っていない」と話した
- 据え置いたのは、リスクや金融環境の動きを「もう少し見ていく必要がある」と判断したから。次の会合は12月17日・18日
- 日銀は、持っている株のETFを売るペースを、2027年から約2.6倍にする。それでも売り買い全体の0.1%ほど
- 物価は2%以上上がっている実感がある。でも、今回は予想どおり。次は12月、もしくは1月かなぁ、と思う
・物価の見通し:日本銀行「経済・物価情勢の展望(2026年10月)基本的見解」
・ETFの売却:日本銀行「ETFの売却ペースの見直しに関する決定」、営業毎旬報告(9月30日現在)、2025年度決算
・総裁の会見:THE PAGE(会見の動画、自動字幕で発言を確認)、読売新聞、朝日新聞、共同通信、時事通信(いずれも10月30日。発言は会見の動画の自動字幕から。日銀の会見要旨が出たら、言い回しを照らし合わせる)
・市場の反応:日本経済新聞「東証大引け 日経平均は4日ぶり反落」、日本経済新聞「日銀、物価2%到達を表明」、日本経済新聞「日銀のETF売り『倍速でも吸収可能』」、OANDA(利上げの織り込み、10月29日夕方)、前引けの値はYahoo Finance(日経平均の5分ごとの値動き)
・9月の消費者物価:総務省統計局「消費者物価指数 全国 2026年9月分」(10月23日公表)
・格言:スエトニウス『ローマ皇帝伝』アウグストゥスの巻
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