日本に生まれて、幸福だと思っている。なのに、世界の幸福度で日本は61位。理由を考えてみた
9月23日、ブルームバーグが、シンガポールの元外務大臣のインタビューを伝えた。シンガポールは、1人あたりの経済の大きさ(1人あたりGDP)がアジアでいちばん高い、豊かな国だ。それなのに、いくつかの幸福度の調査でふるわない。理由を聞かれた元外務大臣は、こう答えている。
時として、不幸せは、何かを成し遂げるための前提条件なのかもしれない
例に挙げたのは、自分がいた外務省と通商産業省だ。職員調査では、どちらも仕事と私生活の両立が「ひどい」と出ていたのに、職員のやる気は役所の中でいちばん高かったという。楽ではない毎日(不幸せ)のほうが、大きなことを成し遂げる力になることもある、という意味だ。
では、日本はどうか。調べると、世界幸福度報告で日本は147か国中61位。シンガポールの36位より、さらに下にいた。ここで、いくつか疑問がわいてくる。
😤「幸福度って、そもそも何を測っているの?」
🤔「日本は安全で清潔なのに、なぜ順位が低いの?」
🏠「お金が増えたら、幸せになれるの?」
わたしは、日本に生まれて幸福だと思っている。安全、衛生、医療、教育、食、文化。どれをとっても、恵まれていると思っている。だから、この順位には、アレっと思った。
結論から言うと、幸福度の順位は、国の暮らしやすさを採点したものではない。一人ひとりが、自分の人生に0〜10点で点をつけた、その平均だ。日本は、健康に暮らせる年数では世界の上位にいる。それでも、暮らしの条件のわりに、自分につける点数が低い。そこには、日本の人の「幸せ」のとらえ方が関わっていそうだ。わたしなら、自分の人生に7点以上をつける。順番に見ていく。
1. シンガポールは、豊かなのに幸せではないのか
1つ目の声、「シンガポールは、お金持ちの国なのに幸せじゃないの?」。記事によると、シンガポールでは、毎日の生活のペースがとても速く、ハードに働くのが当たり前になっている。そのことに、お金持ちも含めて不満の声が多いという。元外務大臣は、建国の父リー・クアンユー元首相が部下に言った言葉も紹介している。
経済発展や、インフラや、教育は約束できる。でも、幸福だけは決して約束してはならない
国が用意できるのは、豊かさや便利さまで。幸せかどうかは、そこに住む一人ひとりが決める。この言葉は、2章の話にそのままつながっている。
2. 幸福度は、何を測っているのか
2つ目の声。世界幸福度報告は、イギリスのオックスフォード大学の研究所が、ギャラップや国連の関係機関と組んで、毎年3月に出している。順位のもとになっているのは、アメリカの調査会社ギャラップが、世界中で同じ質問をした答えだ。
つまり、幸福度は、国の暮らしやすさを専門家が採点したものではない。一人ひとりが、自分の人生に自分で点をつけた、その平均だ。
日本とシンガポールの差は、0.46点。10点満点のはしごで、半段ほどの差だ。
3. 日本が高いところ、低いところ
報告書は、国ごとの点数の差を、6つの要因で説明しようとしている。ただし、報告書自身が「順位はこの6つで決めているのではない」と念を押している。6つの要因は、あとから「なぜその点数なのか」を読み解くための道具になる。
日本が世界の上位にいるのは、健康に暮らせる年数だ。4位で、シンガポール(2位)とほぼ並ぶ。
逆に低いのは、寄付と、人生を自由に選べているという感覚。寄付は147か国中146位で、下から2番目だった。
いちばん気になったのは、いちばん下の行だ。
報告書は、6つの要因から「この条件の国なら、はしごの何段目くらいに立つはず」という予想の点数を出している。健康に暮らせる年数が長く、お金もあって、頼れる人もいる国なら、予想の点は高くなる。その予想と、みんなが実際につけた点との差が「説明できない残り」だ。
日本は、ここが145か国中123位だった。条件から見れば、もっと上の段に立っていてもおかしくない。それなのに、実際には下の段を選んでいる。つまり、日本の人は、暮らしの条件から予想されるより、自分の人生に低い点をつけている。
4. 日本の人は、幸せをどうとらえているか
では、なぜ低くつけるのか。1つの手がかりは、日本の人の「幸せ」の受け取り方にありそうだ。
幸せを、いつか過ぎていくもの、ほどほどがいいもの、と考えるなら、10点満点のはしごの上のほうには立ちにくい。
日本の人が点数の真ん中を選びやすい、という研究もある。ただ、その差は小さく、順位の低さを答え方のくせのせいとまでは言えないとされている。
5. わたしの実感と、わたしの点数
3つ目の声、「日本は安全で清潔なのに、なぜ順位が低いの?」。わたしが日本に生まれて幸福だと感じる理由を、書き出してみた。
どれも、わたしの実感だ。数字で見ると、少し違う面もある。ギャラップの別の報告書で「夜にひとりで歩いて安全と感じるか」を見ると、日本は78%で、144か国の中では真ん中より上の30位台だった。いちばん高いのはシンガポールの98%。わたしが危険を感じないことと、国全体の答えは、同じではない。
では、わたしなら、はしごの何段目に立つか。むずかしい質問だけれど、7点以上をつけていいと思っている。何不自由ない暮らし。資産形成もできて、仕事もできている。近くに友人もいて、両親もまだ健在だ。
6. お金が増えたら、幸せになれるのか
4つ目の声、「お金が増えたら、幸せになれるの?」。
わたしの場合、お金が増えたことで、不快を避けることはできている。それが幸福と直結するわけではない。でも、より楽に、自由に、ストレスなく生活ができているとは感じる。
9月21日の記事では、わたしの不安が小さくなったのは、お金だけの力ではなかったと書いた。資産と仕事と健康の3つがそろっていることが、不安を小さくしている。今回、自分に7点以上をつけた理由を並べてみても、お金はその一部だった。
7. わたしの見方
老子『老子』第三十三章
老子は、2,500年ほど前の中国の思想家とされる人だ。いつ生まれ、どう生きたのかは、はっきりしていない。残っているのは、『老子』という5,000字ほどの短い書物だ。欲をふくらませず、自然にさからわずに生きることを説いている。
この言葉は、その第三十三章の一節だ。前から読むと、こう続いている。
人を知る者は智、自ら知る者は明なり。人に勝つ者は力あり、自ら勝つ者は強し。足るを知る者は富む
他人を知るより、自分を知ること。他人に勝つより、自分に勝つこと。その流れで、豊かさとは、どれだけ持っているかではなく、「これで足りている」と知っていることだ、と言っている。
冒頭の、シンガポールの元外務大臣の言葉とは、反対の向きだ。不幸せを、何かを成し遂げる力にするのか。足りていると知ることを、豊かさとするのか。
わたしは、何不自由ない暮らしをしている。だから、はじめにこの問いに7点以上と答えた。足るを知る者への道のりは遠そうだ。
8. まとめ
- シンガポールはアジアでいちばん豊かなのに、いくつかの幸福度の調査でふるわない。世界幸福度報告で日本は147か国中61位で、シンガポールの36位より下
- 幸福度は、国の暮らしやすさの採点ではない。一人ひとりが自分の人生に0〜10点をつけた平均
- 日本は健康に暮らせる年数が世界4位。一方で、寄付は146位、人生を自由に選べている感覚は84位
- 日本の人は、暮らしの条件から予想されるより、自分の人生に低い点をつけている。幸せを「長く続かないもの」と考えやすい、という研究もある
- わたしは日本に生まれて幸福だと思っている。自分の人生には7点以上をつける
- お金が増えて、不快は避けられるようになった。でも、幸福と直結はしない
・世界幸福度報告:World Happiness Report 2026(図2.1、付属データ、統計付録)。「順位は6つの要因の指数で決めていない」は報告書の本文より
・イプソス:Ipsos Happiness Index 2026(2026年3月、29か国。日本は63%で26位)
・日本の「幸せ」のとらえ方:Uchida & Kitayama(2009年)、Uchida(2010年)、答え方のくせはChen, Lee & Stevenson(1995年)(仙台などの高校生を対象、7段階の尺度)
・夜ひとりで歩いて安全と感じるか:Gallup「Global Safety Report 2025」(2024年のデータ)
・老子の言葉:『老子』第三十三章「知人者智、自知者明。勝人者有力、自勝者強。知足者富」の書き下し
・資産・仕事・健康の3つ:9月21日の記事




