ゴールドマン、「貸す仕事」が「仲介する仕事」を上回る
株の売り買いをつないで稼ぐ会社。ゴールドマン・サックスに、わたしはそんなイメージを持っていた。
でも、10月13日に発表された7〜9月の決算で、株の部門でいちばん稼いだのは、株の売り買いではない。ヘッジファンドにお金や株を「貸す仕事」だという。TBS CROSS DIGに載ったブルームバーグの記事で知って、意外だった。
ヘッジファンドは、お金持ちや、会社員・公務員の年金を運用する団体(年金基金)などから集めたお金を、借金や空売りも使って大きく運用する、プロの投資会社だ。
なぜ、いま貸す仕事が大きくなっているのか。
答えは、ヘッジファンドが、借りたお金で投資する量を、ここ数年で大きく増やしているからだ。AI株などの値動きが荒くなると、いっきにもうけるチャンスが増える。そこで、借りたお金で大きく買ったり、株を借りて空売りしたりする動きが広がった。ゴールドマンは、その「貸し賃」で稼いでいる。
🏦「ゴールドマンって、結局何屋なの?」
🔍「なぜいま、貸す仕事が大きくなっているの?」
📈「個人も、借金して投資しているの?」
🐾「わたしは、どうする?」
順番に見ていく。
1. 何が起きたの?
ゴールドマン・サックスは10月13日、7〜9月の3か月(四半期)の決算を発表した。株の部門の収入は64.4億ドル(約1兆円)で、過去2番目の高さだった。会社全体の収入も、前の年より23%増えて186.8億ドル。もうけ(純利益)は、29%増えて52.9億ドル。
注目は、その中身だ。
株の部門には、大きく2つの仕事がある。1つは、株を買いたい人と売りたい人をつなぐ「仲介する仕事」。もう1つは、ヘッジファンドなどにお金や株を「貸す仕事」だ。貸す仕事の収入は33.7億ドルで、過去最高。3か月ごとの決算で見て、初めて仲介する仕事を上回った。
一方で、債券部門の収入は、前の年とほぼ同じで、期待外れだったと報じられている。
2. ゴールドマンって、結局何屋なの?
わたしの感覚では「コンサル? 証券会社?」くらいだった。
答えは、「大きな会社やプロが相手の、証券会社のような会社」だった。法律の上では銀行の仲間だけれど、仕事はふつうの銀行とはちがう。
ゴールドマン・サックスは、1869年にニューヨークで生まれた金融の会社だ。お客さんは、大きな会社や、プロの投資家、お金持ちや年金基金。日本のわたしたちが、口座をつくったり住宅ローンを借りたりする相手ではない(アメリカではネットの預金口座もあるが、稼ぎの中心ではない)。ゴールドマンは「投資銀行」と呼ばれる会社で、預金を集めてお金を貸す、ふつうの銀行とはちがう。日本でいえば、銀行よりも、大きな証券会社に近い。
ただし、2008年のリーマン・ショックのとき、ゴールドマンは国の支えを受けやすくするために、法律の上では「銀行持株会社」になっている。いまは預金も集めているけれど、稼ぎの中心は、助言と、株や債券の売り買いや貸し付け、そしてお金の運用だ。
手持ちのお金より多く株を買えるように、お金を貸す。借りたお金で投資することを「レバレッジ」という
値下がりしそうな株を借りて先に売り、安くなったら買い戻して返す「空売り」のために、株を貸す
ファンドの株やお金を預かって管理する。ファンドにお金を出したい投資家を紹介する
ゴールドマンは貸す側で、ヘッジファンドは借りる側。今回のニュースは、ヘッジファンドがたくさん借りて投資するようになり、株の部門では、ゴールドマンの「貸し賃」がいちばんの稼ぎになった、という話だ。
3. なぜいま、貸す仕事が大きくなっているの?
ゴールドマンの財務責任者は決算の説明で、貸す仕事への需要は、業界が出せる量を上回っている、とも話している。
AIとの関係も見えてくる。ブルームバーグの記事は、相場の激しい動きを乗り切るために、大きな投資家が借りる量を増やした、と書いている。テック株などの値動きが荒くなったことで、ゴールドマン自身の、株の売り買いを仲介して稼ぐ収入も大きく増えた。値動きが荒いと、上がると見た株を借りたお金で大きく買う人も、下がると見た株を借りて空売りする人も増える。その貸し賃が、貸す側に入る。
ただ、ゴールドマンの財務責任者は、7〜9月のあいだに、借りる量を減らす動きもあったと話している。株価が下がると、借りていた人は返そうとする。それでも、7〜9月の平均で見れば、貸している量は高い水準だった。貸す仕事にも、波はある。
4. 個人も、借金して投資しているの?
今回の「貸す仕事」の相手は、ヘッジファンドや、お金持ちの一族の資産を運用する会社で、個人ではない。
ただ、個人もふくめた市場全体でも、借りて投資するお金は高い水準にある。信用取引は、証券会社からお金や株を借りて売り買いすること。FXは、預けたお金の何倍もの外貨を売り買いできる取引だ。
借金は、相場が下がったときに、下げを大きくする。借りて買った株が値下がりすると、借金のかたになっている株の値打ちが減るので、貸した側は追加の担保を求める。これが「追証(おいしょう)」だ。払えなければ、株は強制的に売られる。その売りが、さらに値段を下げる。
2021年には、アメリカの投資会社アルケゴスが、銀行との取引を使って、手持ちのお金の何倍もの株に投資していたが、値下がりで追加の担保を払えなくなり、破綻した。貸していた銀行や証券会社には、合わせて100億ドルをこえる損失が出たと報じられている。
韓国では、10月12日と13日に株価が大きく下がった。代金を払いきれずに、強制的に売られた株の額は、12日に270億ウォン(約32億円)、13日に593億ウォン(約70億円)。2024〜2025年のふつうの日は1日60億〜70億ウォンほどなので、その4倍、9倍にあたる。ただ、今年6月には、1日で1,700億ウォン近くが強制的に売られた日もあった。
上の数字は、その残りを払えなかったときに、証券会社が強制的に売った額だ。値下がりしたかどうかに関係なく、払えなければ売られる。追証とはしくみがちがうが、「借りて買った株が、強制的に売られる」点は同じだ。
5. わたしは、どうする?
(室町時代の連歌師・宗長の歌にも詠まれている)
だれもが知っている、日本のことわざだ。江戸時代のはじめにまとめられた笑い話の本『醒睡笑(せいすいしょう)』に、室町時代の連歌師・宗長が詠んだ歌として、こう残っている。
「もののふの 矢橋(やばせ)の船は 早くとも 急がば回れ 瀬田の長橋」
草津から大津へ行くとき、琵琶湖を船で渡れば6kmで近い。でも、冬から春は、山から吹きおろす「比叡おろし」の季節で、船は危ない。遠回りでも、12kmの道を歩いて瀬田の唐橋を渡るほうが、結局は確かに着く。急ぐときほど、確かな道を選んだほうがいい、という意味だ。
わたしは、信用取引やレバレッジ投資は、プロがするものだと思っている。素人が手を出す領域だとは思っていないし、わたしはやらない。
韓国の若者だったり、FXだったり、ギャンブル性の高い投資が増えている、という話はよく見る。トレンドなのかもしれない。でも、今回のニュースは、プロの話だ。
借金で投資を大きくするのは、速いけれど、風にあおられやすい船に乗るようなものだと思う。その道のプロでさえ、風を読みちがえれば、投資会社アルケゴスのように沈んでしまう。わたしは、遠回りでも、急がずに時間を味方にする長い橋を渡っていきたい。
6. まとめ
- ゴールドマンの7〜9月の株の部門で、ヘッジファンドに「貸す仕事」の収入が33.7億ドルと、株の売り買いを「仲介する仕事」を初めて上回った
- ゴールドマンは、ふつうの銀行ではなく、コンサルと証券会社をあわせたような「投資銀行」。今回の主役は、3つ目の「貸し手」の顔
- 理由は、ヘッジファンドが借りて投資する量が増えていること。借りているお金は2020年の3倍、借りる割合も2025年末に過去最高
- 7月の半導体株の急落では、一部のファンドに追加の担保が求められた。借金は、下げのときに売りを大きくする
- 個人もふくめた市場全体でも、アメリカの信用取引、韓国の信用融資、日本のFXの持ち高が、高い水準にある
- わたしは、借りて投資するのはプロの領域だと思っている。わたしはやらない
・ゴールドマンの決算:Goldman Sachs「Third Quarter 2026 Earnings Results」(2026年10月13日)、決算説明会(同日)
・FRBの数字:米連邦準備制度理事会「Financial Stability Report」(2026年5月)
・ヘッジファンドの借り入れ:Hedgeweek(2026年10月8日)、同(AI株の急落と追加の担保)
・ゴールドマンが銀行持株会社になった経緯:米連邦準備制度理事会(2008年9月21日)
・アルケゴス:米証券取引委員会(2022年4月27日)
・アメリカの信用取引の残高:FINRA「Margin Statistics」
・韓国の信用融資と強制的な売り:韓国経済新聞(2026年10月13日)、The Public(2026年8月6日、過去最高の値)、韓国金融投資協会の統計(強制的な売りの額)
・日本のFX:金融先物取引業協会「店頭FX月次速報」
・格言:コトバンク「急がば回れ」(ことわざを知る辞典、『醒睡笑』の用例)、草津市の観光パンフレット(比叡おろし、道のり)




